試合に出られない子どもに、なぜモヤモヤ? 期待は“圧”…大切なのは「野球が好きか」

少年野球の指導者を約20年務める年中夢球さん【写真:伊藤賢汰】
少年野球の指導者を約20年務める年中夢球さん【写真:伊藤賢汰】

レギュラーになれない子どもに葛藤する保護者に年中夢球氏が助言

 試合の応援に駆けつけて、グラウンドを見渡すとわが子がいない。(今回もベンチか)と思わず肩を落とす。選手の親たちの声援が響きわたり、その親のひとりから「○○くん、えらいね〜、一番声が出てるよ」と言われても、素直には受け取れない。(選手に選ばれていると余裕だよね)なんて思ってしまう。息子はヘルメットを揃え、自分より年下の選手にタオルを渡したり水を渡したりしている。切ない。息子なりに頑張ってことはわかっているけど、モヤモヤが消えない……。

 リトルリーグなどで指導者を務め、野球講演家として活動する年中夢球さんに、そんな小学校高学年の野球少年を持つ母親の葛藤について聞くと、こう切り出した。

「『結果』ではなく『経過』を見てあげてください、『期待』をするのではなく『応援』をしてあげてください。お母さんは結果しか見ていない。“わが子が選手に選ばれて試合に出る”期待をして、期待どおりの結果でない上に、学年が下の子の世話までしていることにモヤモヤしているのです」

 指摘は厳しいが、その裏には子どもたちへの思いがある。高学年にもなると、子どもも親の期待感がわかってくる。言葉に出さなくても、試合を見に来た親のガッカリした表情を子どもは見ている。見に来られなかったとしても、「試合どうだった? 出たの?」と聞かれて、返答する時に親の期待を感じ取っている。期待に応えられていないと思うのはつらいことだ。

「では、たとえば試合に出たとしたらどうでしょう。最初こそ期待が叶いお母さんは大喜びするかもしれませんが、次はヒットを打ったかが気になりだすでしょう。『今日は打ったの?』と問いかけてしまう。経過を見ないで結果だけを追いかけると、どんどんハードルが上がっていき、それが子どもへの圧になる。お母さんがモヤモヤするのは、結果が出ていないことへの焦燥感に加えて、わが子を見ているのではなく、わが子と誰かを比べて見ているからです」

「レギュラーを取れなくてごめんね、と言わせたいですか?」

 この言葉も手厳しいが、その後にこう続けた。「比べるべきは、1年前のわが子と今のわが子です。1年前と比べて、どれだけ成長したか、どれだけ頑張ってきたか、その経過を振り返ったら、モヤモヤでなく、すごいなウチの子ときっと思うでしょう」。

 さらに、今だけを切り取って見ない方がいいとアドバイスをくれた。どうしても親は、“今この瞬間”しか見えなくなってしまいがちだ。しかし、野球では中学生や高校生になってからレギュラーをとる子だっていっぱいいる。

 ずっと先のことだが、社会人になって仕事が大変な時、「自分はヒットを打ったから頑張ろう」と一場面だけを切り取って考える人は少ないだろう。でも、一生懸命に練習してきた日々を思い出し、「あの頃みたいに頑張ろう」と思うことはあるはずだ。「結果より経過が、後々になっても大きな糧になるということです」。

 そして年中夢球さん、静かにこう言った。

「卒団式の時に、『お母さんレギュラー取れなくてごめんね』なんて言わせたいですか?」

 言わせたいわけがない。どの親だって、頑張ってきたわが子を褒めてあげたい。年中夢球さんは大きくうなずいた。

「野球が好きで頑張っているわが子を誇りに思ってほしいのです。だから結果だけを見るのではなく、頑張ってきたプロセスを見続けて、そこを褒めてあげてほしい。自分の期待を押し付けるのではなく、野球が好きで頑張っているお子さんを応援してあげてください」

 子どもの頑張ってる姿を見て、親も元気になるというのが応援力なのだ。

 バットケースを背負って玄関から走り出ていく後ろ姿を今はもう、なにげなく見送っているかもしれない。それでも、いつでも、何度でも「頑張ってるね」と声をかけて応援しよう。「うん!」と答えるわが子の笑顔、表情の輝きを見れば、モヤモヤした気持ちも、きっと消えるはずだから。

(大橋礼 / Rei Ohashi)

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