勉強してほしいのに…子どもは“野球留学”希望 悩む保護者に必要な「情報収集力」
地元の野球部で「受験に備えてほしい」保護者に年中夢球さんが助言
「遠方にある高校を受験し、合格したら寮に入り、野球部で頑張りたいと子どもが言うのです」と、中学3年生の球児を持つ母親が困惑気味に話してくれた。地方住まいだが、近隣には特に野球で有名な高校はないという。本人はずっと軟式野球を続けてはきた。「でもスポーツ推薦もとれないレベルなのに、寮に入ってまで野球が強い高校に行くというのも……。地元の高校でも野球部はあるし、しっかり勉強して大学受験に備えてほしい」。親の希望は明確だが、子どもの気持ちを考えると強く言えないことに悩んでいると言う。
リトルリーグ指導者経験も豊富で野球講演家である年中夢球さんに、この話を聞いてもらった。
「高校の進路に正解はありません」。ただし、自身も塾講師であることを踏まえて「ネームバリューだけで高校を選ぶと、入学してからこんなはずじゃなかったというパターンが多い印象はあります」と続けた。
「15歳は自分で決断をするスタート地点に立ったところです。高校への進路というのは、たぶん、初めての大きな自己表明です。子どものトライする気持ちやそこに至るまでの考えと志望した理由を、親はなるべく尊重してあげたほうがよいと思います」
2つの進路があるとして、親が「こちらにしなさい」と決めた場合、もし学校でうまくいかなかった時、子どもは「だから俺はあっちがいいと言ったのに」となるのはよくあるパターンだ。
とはいえ15歳はまだ社会を知らない年齢でもあるから、親の協力も重要だと言う。
「野球をメインに進路を考えているのなら、希望している高校野球部に関する情報を収集して、子どもに伝えてあげてください。実際にその学校の野球部に入っている親子の意見を聞く、それが難しければお子さんが入っている野球チームの監督などに情報はないか聞いてみるといいですね。監督たちはつながりがありますから、もし知らなかったとしても他の人に聞いてくれるかもしれません」
個人的な印象や感情も入るから、1人ではなく、なるべくフラットに多くの人から話を聞き、いろいろな情報を集めることも大事だと言う。
高校で野球がもっと好きになり「大学でも頑張ろう」となる可能性も
今年の夏の甲子園は、「エンジョイベースボール」を掲げる慶応の活躍に沸いた。しかし、高校によって指導法はさまざまだ。それぞれ方針や部活の運営は違う。
高校のイメージだけでなく、実際の環境を知った上で「ここに行きたい」と決断できるようにリアルな情報を提示してあげること。公立の高校なら教員は数年で異動になるから、今の監督が来年にはいない可能性もあることや、私立であれば寮の様子、練習量、部員数、コーチの人数などを調べて、こういう感じみたいだよと話をする。子どもがどんな風に野球に取り組みたいのかも真剣に聞いて、志望校が合っているかを見極める手助けをしてあげる。
「少し気になるのは、ご両親が最初から子どもの可能性を否定しているようにも見受けられる点です。強いチームに入るようなレベルではない、子どもの野球は高校で終わると決めつけているようにも思える。でも、高校で野球がもっと好きになって、大学でも頑張ろうとなるかもしれませんよ」
可能性は野球を続ける限り、ゼロではない。1%と2%の差はあまりないが、ゼロと1%では全然違う。最初から親が「ゼロ」としてしまうのはどうなのだろうと、年中夢球さんは疑問を投げかけた。
高校の進路は授業料を含め親の支援なくしては通えないのだから、適切なアドバイスはするべきだ。もちろん事情によっては断念させなくてはならないケースもあるだろう。それでも、できる限り、最後の決断は子どもに委ねてみるべきではないか。
どれほど憧れた高校でも、入ったら「思っていたのとは違う」ことはある。しかし自分の決断なら、自分でどう対応するかを考えるはず。決断とは、責任を持つこと。それが15歳からスタートする新たな成長・自立へのステップであり、社会へ巣立つためにとても大切なプロセスであることを親は胸に刻んで、子どもの進路を応援してあげたい。
(大橋礼 / Rei Ohashi)
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