少年野球に生きるダーツや相撲の動き 元五輪選手の監督が他競技から得る指導のヒント
矢を放つ時は体の近くに腕…「野球も同じ」
横浜市の少年野球チーム「平戸イーグルス」の中村大伸監督は、ダーツや力士の動きなど別の競技を例に出し、野球で大切な動きを選手に伝えている。体の使い方の説明は、知識や経験の少ない小学生には理解するのが難しいケースもあるためだ。指導者が持つ引き出しの数が多いほど、選手が上達するチャンスが増えると考えている。
中村監督はアマチュア野球界の王道を歩んできた。横浜商3年の時に春夏連続で甲子園準優勝。日体大で首都大学リーグの首位打者やベストナインを獲得し、大学日本代表にも選ばれた。そして、社会人のNTT東京では10年連続で都市対抗に出場し、アトランタ五輪では日本の主将として銀メダル獲得に貢献した。
ただ、選手としての実績と少年野球の指導は重ならない部分があると考えている。相手は小学生。大学や社会人の選手と同じ説明をしても理解できない。
そこで、中村監督はシンプルな言葉で説明したり、必要な動きが自然と身に付く指導や練習法を取り入れたりしている。野球以外の競技から得たヒントを選手に伝える方法も、その1つだ。例えば、投球や送球のコントロールが定まらない選手には、ダーツの動きを交えて制球力を上げるポイントを解説する。
「どうやったら的に向けて正確に投げられるかを考えた時、矢を投げる方の腕が自然に体の近くにきます。腕が体から離れるとコントロールが定まらないためです。野球でも同じことが言えます」
強い球を投げる上でも、腕が体から離れないようにするフォームが大切になるという。中村監督はボクサーの動きを例に出し「体の近くから出したパンチの方が強くなります。腕が体から離れると力が逃げてしまいます」と説明する。
守備や走塁で重要な1歩目の動き…力士の立ち合いを参考
守備や走塁で重要になる1歩目の動きは、力士の立ち合いを参考にしている。取組は5秒、10秒で勝敗が決まる。狭い土俵で相手より早く1歩目を踏み込めるかどうかは、勝負のカギとなる。
「力士は立ち合いで中腰になって、瞬間的に力を出します。これは守備や走塁でスタートを良くする動きと共通点があります。野球以外の競技を見ながら指導につながるヒントを探したり、子どもたちに分かりやすく伝える方法を考えたりしています」
選手の能力を引き出すため、練習やトレーニングの狙いを説明することや、苦手な分野を減らすことも心掛けている。腹筋や背筋を単なるノルマとして課すのではなく、「打球を遠くに飛ばしたい選手は背筋、守備で球際に強くなりたい選手は腹筋が大事」などと声をかける。チームの活動がない平日に自主練習する選手は打撃を強化する傾向が強いため、全体練習ではバント練習を取り入れる。
「子どもたちが一番好きなのは打撃なので、自由な時間はバットを振っています。苦手なことや嫌いなことは積極的に自主練習しません。打撃でも守備でも走塁でも、できることが増えれば試合に出るチャンスも増えます。子どもたちの苦手分野を少なくして、できるプレーを増やすことが指導者の役割だと考えています」
強制するだけでは、選手が持つ力を引き出せない。説明の仕方や練習メニューなど、指導者の引き出しが多いほど、選手の能力を開花させる可能性が高くなる。
(間淳 / Jun Aida)
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