明大選手が“求められ続ける”理由 指導陣と共に生活…実績ないほど「チャンスある」

明治大学野球部【写真:中戸川知世】
明治大学野球部【写真:中戸川知世】

監督、助監督、コーチが寮に住み込み生活面から指導する明大

 明治大学野球部は、2023年春まで3季連続優勝を成し遂げた東京六大学リーグの名門。今秋は4連覇を逃したものの、ドラフト会議では昨年まで実に13年連続で指名選手を輩出するなど、多くの選手をプロ野球に送り込んでいる。今年も、主将の上田希由翔内野手をはじめ、村田賢一投手、蒔田稔投手、石原勇輝投手の計4人がプロ志望届を提出済み。“記録更新”は濃厚な状況だ。明大の選手たちが、プロから求められ続ける理由はどこにあるのだろうか。

「明治には、高校時代にそれほど実績がなくても4年間でグンと伸びる選手がいる。いい先輩の背中を見た後輩が自主的に練習するようになり、伝統となっているのではないでしょうか」。こう指摘するのは、名スカウトとして知られる広島の苑田聡彦スカウト統括部長。プロに行くには大学時代にどんな意識で、どれほど練習を積まなければならないか、見本は常に目の前にあるというわけだ。

 さらに苑田部長は「明治の選手はよく練習しますが、決して“やらされる練習”ではない。1人1人が自分の頭で、必要なことは何かを考えながらやっている。だから身になるのだと思います」と目を細め、「カープがメキメキ強くなっていった昭和50年代を思い出します。当時若手だった高橋慶彦らが全体練習開始のずっと前から球場に行って、場所を争うようにしてティー打撃などに打ち込んでいたものです」と、プロで黄金時代を作り上げた選手たちになぞらえた。

 明大の伝統を語る上で欠かせないのが、東京都府中市での全寮制の寮生活だろう。「人間力野球」を掲げ、現在は2020年から指揮を執っている田中武宏監督、戸塚俊美助監督、翌2021年から加わった元巨人内野手の福王昭仁コーチが寮に住み込み、選手と寝食をともにしながら生活面の指導も施している。様々な約束事、役割がある中で、誰もが嫌がるトイレ掃除を伝統的に上級生が担うのは有名な話だ。

 とは言え、“昭和式”の頭ごなしの指導はない。指導陣と選手の関係も、今は非常にソフトな印象だ。リーグ戦中、毎試合後に監督と選手1~2人を招いて記者会見が行われるが、田中監督と選手の間では軽妙なやり取りが交わされ、指揮官が「お前、俺のことを友だちだと思ってるだろ?」と苦笑するシーンもある。

強制することはないが「どんな練習が必要かは話して聞かせる」

 福王コーチは「私が学生当時とは違い、練習を強制することはありません。しかし、神宮の舞台で活躍するにはどんな練習が必要かは、選手たちに話して聞かせています。選手同士でもアドバイスし合っていますね」と明かす。

 その上で「生活が乱れている選手、練習をしない選手は試合に出しません。実績も何も関係ない。チームとして動いているのですから。逆に言えば、高校時代の実績で劣る選手にも、チャンスは大いにあります」と強調する。厳しさも形を変えて息づいているようだ。

 また、OBの1人は「『プロに行きたい』という希望を持つ選手には、できる限り配慮していると思いますよ。過去には、内野専門だった選手に上級生になってから外野も守らせ、プロ側へユーティリティ性をアピールした例もありました」と明かす。選手たちの夢に寄り添う、きめの細かさもうかがわせる。

 昨年の春から今年の春まで3季連続優勝するなど、最近のリーグ戦成績でも群を抜く明大。一本筋の通った選手たちが、寮生活を中心とした伝統の継承の中で育まれている。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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