部活動縮小…短時間で高める緊張感 G菅野を育てた中学軟式監督が求める“練習の質”
強豪ひしめく神奈川県相模原市…近年最も勢いのある相陽中
過去に全国中学校軟式野球大会(全中)でベスト4に入った実績を持つ東林中や内出中、菅野智之投手(巨人)を輩出した新町中など、強豪ひしめく神奈川県相模原市の中学軟式野球。この激戦区において、近年最も勢いがあるのが相陽中だ。2022年の「全日本少年春季軟式野球大会」で初のベスト4に勝ち進むと、同年夏の全中にも出場。チームを率いる内藤博洋監督は、初任の新町中で菅野投手の指導に携わり、前任の大沢中では全中ベスト8進出。日本一を本気で目指す集団を作り上げている。
学校を訪れたのは木曜日の放課後。事前に、内藤監督からは「練習は午後4時20分から5時20分までです」と聞いていたが、体育祭の練習が延びたため、部活動が始まったのは4時35分だった。
残りは45分。「部活動ガイドライン」の影響もあり、公立中の練習時間は年々減っているのが現状だ。相陽中の場合は、今年から「相陽クラブ」として平日週2日のナイター練習を行ってはいるが、基本的には放課後が勝負の時間となる。着替えを始めていた選手たちに、内藤監督が声をかけた。
「温度を上げて! 45分、濃い密度にするぞ!」
ゆっくり入念にアップをしている時間はない。こうした状況のときに取り入れているのが、通称「ノックアップ」だ。全員がサードのポジションに入り、ノックに対して足を使って捕球していく。内藤監督は1球1球速いテンポで、三遊間方向にリズミカルに打ちまくっていた。
「足を使って! ボールまでのダッシュ感が大事!」。ノックを打ちながら、常に選手に声をかける。「『ヨーイ・ドン!』の声かけも入れて。後ろに待っている選手も、全員で言ってあげて」
「ヨーイ」で1歩目を切りやすい構えを取り、小さくジャンプを入れて「ドン」でノッカーのインパクトと合わせる。いわゆる、「スプリットステップ」とも呼ばれる動きである。
“オノマトペ”を有効活用「監督が本気にならないと…」
内藤監督は、捕球から送球の流れに対しても、独特の表現を使ってアドバイスを送っていた。「『ハイ・ハイ!』だよ。自分たちで声に出して!」
前方の緩いゴロをさばくときに、「ハイ」で捕球したあと、余分なステップを入れずに、次の「ハイ」で送球に移る。簡単に言えば、「イチ・ニのリズムで投げなさい」ということだ。
「“オノマトペ”と言っていいかわかりませんが、難しい言葉よりも、音や擬音を使ったほうが中学生はわかりやすいと思います。自分たちで声を出しながら、そのリズムを体に覚えてこませていく。声を出すことで、雰囲気も良くなっていきます」
静かでどんよりとした雰囲気が嫌いな内藤監督。選手たち以上に大きな声を出して、チームを引っ張ることもある。「監督が熱く本気にならないと、選手の温度も上がりませんから」。これが、指導者としてずっと大事にしている信念だ。さらに、声を出す意味はほかにもある。
「練習であっても、試合と同じ心拍数で取り組めるかどうか。練習でのんびりやっていたら、いざ試合に入ったときにドキドキする自分に負けてしまいます。そもそも、私は“練習”という言葉が好きではなくて、“試合のためのリハーサル”だと捉えています。日々のグラウンドで、試合につながるような取り組みができていなければ、大事な試合で勝つことはできません」
心拍数を上げるためにも、テンポを高め、声を出し、緊張感と集中力を高めていく。ノックアップにかけた時間はおよそ10分。取り組み次第で、10分の質を高めることは十分にできる。
(大利実 / Minoru Ohtoshi)
○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。
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