打撃練習は「5秒に1球」 短時間でも質&量両立…軟式強豪が徹底する“テンポ感”

相模原市立相陽中の練習風景【写真:伊藤賢汰】
相模原市立相陽中の練習風景【写真:伊藤賢汰】

2022年の全日本少年春季4強など成果を収める神奈川の相陽中

 放課後およそ1時間の練習で、2022年「全日本少年春季軟式野球大会」ベスト4などの成果を収めている神奈川・相模原市立相陽中。「相陽クラブ」として戦った今秋の新チームでは、県大会準決勝に勝ち進み、全日本少年春季出場にあと1勝にまで迫った。取材日の活動時間は45分。ウォームアップと守備技術の向上を兼ねた「ノックアップ」で心と体の温度を上げたあとには、走者二塁からのバントを巡る攻防に入った。

「どんどん投げろ、1球の間合いを詰めて。テンポ感を大事に!」。この「テンポ感」という表現は、内藤博洋監督の口癖と言ってもいいぐらい、よく出てくる言葉だ。

「短い時間で勝負するには、チーム全員が高い意識を持って、テンポ感を上げていくことです。1分間でどれだけのプレーをすることができるか。たとえば、バッティング練習をやる時には、『5秒に1球』を基準に置いて速いテンポで打つ。間合いを詰めることで、打てる量が必然的に多くなっていきます」

 ただし、速いテンポでやることばかりに気を取られて、“ただやるだけ”の状態になっては何の意味もない。バント練習中には「ここだよ、ここ。ここでスイッチを入れるんだよ!」と指揮官からの声が飛んだ。

「ここ」とは、ピッチャーがセットに入る直前だ。「まさに、これから投げる」というタイミングで、周りの野手が「サードでアウトを取るぞ!」「高めに攻めろ!」など具体的な声をかけ、守備陣の気持ちをひとつにする。

「選手たちから、準備の声をどれだけかけられるか。“ふわっ”と入らずに、スイッチを入れる。新チームの段階では指導者である私が言うことが多いのですが、これが自分たちで出せるようになったときは強い。昨年、春夏全国に出場した3年生は、この声かけができていました」

相模原市立相陽中の内藤博洋監督【写真:伊藤賢汰】
相模原市立相陽中の内藤博洋監督【写真:伊藤賢汰】

どんなに短い時間でも…毎日“勝負をかけた”メニューを導入

 まずは、指導者が声を出すことで、声かけのタイミングや内容を選手たちに教えていく。「一番イヤなのが、“流れ作業”になってしまうことです。それでは、せっかくの練習の意味が薄れてしまう。1球1球の質を高めるためにも、準備の声を求めています」。

 バントを巡る攻防で、特に守備側に求めているのが「判断力」だという。

「打球を捕った時に二塁ランナーがどこにいれば、三塁でアウトにできるかどうか。走者の足の速さや、自分の送球力、捕球の体勢などを考えながら見極める力を付けてほしいと考えています」

 内藤監督のこだわりは、短い活動時間の中でも必ず、勝負を入れることにある。攻め側と守り側に分けて、セーフとアウトを巡る攻防を入れる。練習であっても、そのワンプレーに真剣勝負が生まれる。

「守備側は何のためにバント練習をするかといえば、アウトを取るためです。シンプルに言えば、『アウトを取るための練習』。セーフにする練習をしていたら、いつまで経っても上達していきません」

 バント練習のあとは、走者三塁でのゴロ打ちが行われた。軟式野球でよく見られる、いわゆる「三塁エンドラン」である。外野ではソフトボール部が活動しているため、放課後にフリーバッティングをするのは難しい。限られたスペースの中で、得点を巡る攻防に時間を充てる。

 攻撃側はゴロを転がし、三塁走者はインパクトに合わせたスタートを切る。守備側はゴロを打たれないような配球を考え、空振りを奪うのがベストだ。

 バントとエンドラン練習が計20分。どんなに短い時間であっても、勝負勘を養うメニューを入れている。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。

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