軟式が持つ硬式への“劣等感” 指導者に思い込みも…異例交流戦に見る「真の実力差」

交流試合を行ったペガサスジュニア(左)と高崎中央ボーイズ【写真:高橋幸司】
交流試合を行ったペガサスジュニア(左)と高崎中央ボーイズ【写真:高橋幸司】

群馬で中学軟式選抜と硬式ボーイズが交流試合…2度目は思わぬ結果に

 2度目となる「硬式」対「軟式」の“異例の”交流戦は、思わぬ結果となった。今夏のジャイアンツカップで4強入りを果たした中学硬式野球の強豪「高崎中央ボーイズ」と、日本中学校体育連盟(中体連)の群馬県選抜軟式チームで、11月の全国中学生都道府県対抗大会で3位となった「群馬ダイヤモンドペガサスジュニア」(以下、ペガサスジュニア)が、11月25日に交流試合を行った。

 昨年、高崎中央ボーイズの倉俣徹監督(読売巨人軍野球振興部長)が、日本中体連軟式野球競技部長の土屋好史さん(高崎市立群馬中央中教員)に提案し、全国的に見ても例がない、硬式と軟式の交流試合が実現した。2回目の開催となった今回も、守備側のチームが普段使う球を採用し(高崎中央ボーイズの攻撃の際は軟球、ペガサスジュニアが攻撃の際は硬球を使用)、7回制をプレーする“特別ルール”で試合を行った。

 昨年は、主力メンバーが出場した2試合いずれも0-0の引き分けだったが、今年はペガサスジュニアが2-0、4-0と高崎中央ボーイズを圧倒。特に2試合目は4投手による継投で“ノーヒットノーラン”に抑えると、選手たちはお祭り騒ぎで喜びを表現した。

 ペガサスジュニアは、高校で硬式に“転向”して野球を続ける希望を持つ選手がほとんど。すでに数人は硬球に持ち替え、練習を行っているという。

 1試合目の2回、木製バットでライト前に快音を響かせた8番の山田直希選手は、「大学でも野球をやりたいので、先に木のバットに慣れておこうと思って使っています。木製はバットの芯で捉えると関係ないんですけど、詰まると痛いです」。3回にセンターオーバーのタイムリーを放った4番・粒見琉乃介選手も、「バットの根っこだったので、軟球だったら潰れてフライになるんですけど、思ったより飛んでくれました」と手応えを感じた様子だ。

ペガサスジュニアの攻撃時は硬式ボールを使用【写真:高橋幸司】
ペガサスジュニアの攻撃時は硬式ボールを使用【写真:高橋幸司】

倉俣監督は「ペガサスジュニアは投手も野手もレベルが高い」

 高崎中央ボーイズの倉俣監督は「負ける予定じゃなかったんですけどね」と苦笑いしながら、開催の意義を話す。

「同じ中3で、『硬式も軟式も、そこまで差がないんだよ』ということをわかってもらうためにやっています。ペガサスジュニアは投手も野手もレベルが高いし、4、5人は硬式に来てもトップレベル。高校でも“やれるぞ”と思ってもらえたのではないでしょうか」

 軟球を打ちあぐね、2試合で無安打に終わった高崎中央ボーイズの主砲、岡田拓馬選手は「思い切り振るとボールが潰れるので、軽く振ることを意識していたんですけど、捉えきれませんでした」と悔しそうな表情。「これまで軟式のチームを見ることはありませんでした。自分たちの世代にもっといい選手がいることもわかったので、これからの野球人生に生かしていきたいと思います」と、高校での“リベンジ”を誓った。

 団体、そしてボールの垣根を越えた画期的な取り組み。昨年の初開催以降は関係者からの問い合わせも相次ぎ、福井県も同様の交流試合を検討しているという。土屋さんがうれしそうに話す。

「軟式の子は、硬式の子への劣等感があります。どうせ勝てるはずがないと思って、最初からやらない指導者がほとんど。今回の結果は、そういった人たちの希望になるのではないかと思っています」

 中学の部活動は、地域のクラブや民間事業者などに委ねる「地域移行」の推進期間が今年度からスタートするなど、改革期の真っただ中。人材確保や委託費用などの面で課題も多く、これまで野球界を底支えしてきた中学軟式野球人口がさらに減少する可能性もある。群馬県から始まった“硬軟自在”の試みのようなアイデアが、流れを変える一手となり得る。

(内田勝治 / Katsuharu Uchida)

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