数字で明らかな「早生まれ」の“逆境” 劣等感生まないために…深めたい大人の言葉かけ

40歳を超えて活躍するヤクルト・石川(左)、青木(右)、ソフトバンク・和田(中央)はいずれも「早生まれ」【写真:町田利衣、藤浦一都、小林靖】
40歳を超えて活躍するヤクルト・石川(左)、青木(右)、ソフトバンク・和田(中央)はいずれも「早生まれ」【写真:町田利衣、藤浦一都、小林靖】

プロ野球でも「早生まれ」は4~6月生まれの約半数しかいない現実

 ヤクルトの石川雅規投手、青木宣親外野手、そしてソフトバンクの和田毅投手……。この3選手の共通点は何か、わかるだろうか。43歳の石川はNPBの現役最年長、41歳の青木は野手最年長、そして42歳の和田はパ・リーグの投手最年長。40代となってもプロ野球の第一線で活躍しているのが、まず1つ。

 そしてもう1つの共通項が、3人とも「早生まれ」(1月1日~4月1日生まれ)ということだ。石川は1月22日、青木は1月5日、和田は2月21日が誕生日である。

 とはいえ実際のところ、プロ野球全体を見ると「早生まれ」の選手数の割合は毎年のように少ない。2023年にNPB球団に所属した日本人選手(育成を含む)を見ても、人数と割合は次のようになる。

・4~6月生まれ 303人(32.8%)
・7~9月生まれ 272人(29.4%)
・10~12月生まれ 195人(21.1%)
・1~3月生まれ 154人(16.7%)
※4月1日生まれは0人

 しかし、子どもの発育・発達に関する研究を行う東京農業大学応用生物科学部教授の勝亦陽一先生に聞くと、この割合であっても「プロ野球選手では、生まれ月の影響は小さくなっているんです」と言う。

「小・中学生の方がもっと影響が大きく、『投手や捕手をする人は4~6月生まれが多い』『中学で硬式を選ぶ子は4~6月生まれが多い』といった傾向があります。年齢が上がるにつれて生まれ月の影響は小さくなっていき、ようやくプロ野球での選手数の差になっているんです」

指導者も保護者も「体が大きいから、小さいから」と決めつけをしない

 なぜ、生まれ月による“差”が生まれるのか。それは同学年で見ると、誕生日が早いほど、身長が大きく増進する時期も早期にやってくるのが一般的だからだ。野球は体が大きい方が、速い球を投げられるしスイングも速く振れる。つまりは、試合にも早い時期から多く出させてもらえて、自分のやりたいポジションを任せられる可能性も高くなる。

 生まれ月は、成長期が来る時期の「早さ」には影響するが、その差は最大でも1年間。また、どれくらい成長するか、成長速度があるかという「速さ」には影響しない。早い月に生まれても“晩熟”の子もいるし、早生まれでも“早熟”な子や早期から活躍する子はいる。例えば、元巨人の桑田真澄さんは4月1日生まれながら、PL学園高1年生から甲子園で大活躍している。

 とはいえ、そうした事実は多くの子どもにとっては理解しにくい。誕生日の早い大柄な同級生と比べて(または比べられて)、まだ体の小さい早生まれの小学生が「自分には才能がない」「投手をやりたいのに、やらせてもらえなくてつまらない」などと、野球をやめてしまうケースがあるのは想像に難くない。生まれ月によるプロ野球選手数の“差”は、そうした傾向の表れといえるだろう。

 野球を続けていれば大成したかもしれない早生まれの子、晩熟型の子たちの才能や意欲を埋もれさせないために、指導者も保護者も「体が大きいから、小さいから」と決めつけをせず、劣等感を抱かせることなく、長い目で選手を見つめることが必要だ。

「成長期がいつやって来るか、どれくらい大きくなるのかは遺伝的要素が関わり、個人差がとても大きい。今はチームの中に、体が大きくてうまい選手がいるかもしれないけれど、コツコツやっていけば逆転できる可能性はあります。親子でそうした理解をしておくだけでも、将来的な目標設定がしやすくなります」

子どもの発育・発達に関する研究を行う東京農業大学の勝亦陽一教授【写真:本人提供】
子どもの発育・発達に関する研究を行う東京農業大学の勝亦陽一教授【写真:本人提供】

早熟型の子どもにもリスク…“勘違い”をしてしまう可能性も

 目標を定める意味では、先に生まれた同級生をターゲットにできる早生まれの方が、実は有利ともいえる。400メートル走で内レーンを走る選手に例えるとわかりやすい。初めは“最後方”だが、前の選手が視界に入るためにレース展開を計算しやすく、野球でいえば「今は同級生と比べて力がないけれど、その分技術を磨いたり柔軟性をつけておこう」と発想の転換につなげられる。

 一方で“先頭”を走る外レーンの選手、つまり誕生日の早い子・早熟な子は、前に標的がいない分、“勘違い”をしてしまうリスクがある。「自分が一番だ」と慢心しているうちに、最終コーナーを回る頃には逆転されている可能性も……。またはライバルが視界にないために、早々とモチベーションを失ってしまうかもしれない。

「晩熟の子でも、技術を身に付けておけば、体が大きくなった時に逆転できます。逆に早熟の子は小さい頃の成功体験に固執してしまい、野球はうまいけれども“それ以上”にならない、ということにもなりかねません。そうしたことも踏まえて、指導者や保護者は適切な声がけをしていくことが大切です」

 石川、和田、青木の3人で、さらにもう1つ、いずれも180センチを超えるような大柄な体格ではないのも共通点。最年長の石川は167センチだ。それでも向上心を持ち、技術を磨き続け、息長く活躍する素晴らしい“手本”となっている。

 成長を見比べるのは周りとではなく、過去の選手自身とだ。大人たちもそれを肝に銘じ、選手を未来へと導いていきたい。

(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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