育成年代の“NG投法”を直すには? 怪我リスク回避…自然に球を強くする「遊び感覚」

愛知名港ボーイズの奥村尚監督【写真:チーム提供】
愛知名港ボーイズの奥村尚監督【写真:チーム提供】

学童の指導も経験…愛知名港ボーイズ監督のフォーム修正の手順

 あえて指導しないことが正解のケースもある。来春の全国大会に出場する名古屋市の中学硬式野球チーム「愛知名港ボーイズ」では、投げ方に悩む選手に細かい指導や指摘をしない。学童野球のチームも約10年間指揮していた奥村尚監督は、小学生に多いダーツ投げの修正には、遊び感覚のアンダースローを勧めている。

 愛知名港ボーイズには、決まった打ち方や投げ方はない。個々の選手に合った形でパフォーマンスを上げている。投げ方に悩む選手には特に、細かい技術指導を避けている。チームを率いる奥村監督が理由を説明する。

「投げ方を直そうとすると、余計におかしくなってイップスになってしまいます。『フォームは気にしないで、力いっぱい投げておけ』と伝えます。強い球を投げられたら褒めると、選手は自信をつけて自然と投げ方が戻っていきます。イップスに対する考え方は色々ありますが、私たちのチームでは褒めて直しています」

 教え過ぎない指導の原点は学童野球チームにある。6年前から愛知名港ボーイズを指揮する奥村監督は元々、小学生を指導していた。小学生は中学生以上に投げ方に個性が表れた。ただ、奥村監督は「あまりいじりたくなかった」という。

「指導者が『こうしなさい』『これはダメ』と指摘すると、選手は一層うまく投げられなくなります。言われて直るようなら選手は悩みません。できないから悩むわけです」

愛知名港ボーイズの投手練習の様子【写真:間淳】
愛知名港ボーイズの投手練習の様子【写真:間淳】

投げ方の修正は怪我のリスクも…選手に課題認識させる指導

 整骨院に勤務する知人に、投げ方を修正するリスクについて聞いたことも理由だった。サイドスローが投げやすい選手に無理やりオーバースローを指導すると、体への負担が大きくなって怪我をする可能性が高まるという。奥村監督はフォームを修正するのではなく、「コントロールを安定させるにはグラブを投げる方へ向けると良いかもしれない」「顔と腕をもう少し近づけて投げると、もっと速い球が投げられる」といった提案をしている。

 小学生に多く見られるダーツ投げの修正には、遊び感覚のアンダースローを勧めている。相手に胸を向けた状態で投げるダーツ投げは球に力が伝わりにくい。アンダースローは胸を正面に向けたまま投げるのが体の構造上難しいため、球を強く投げようとすると右投げの選手は胸が自然と三塁側に向く。

 これにより、選手は体を回旋させると球が強く、速くなる感覚を知る。奥村監督は「オーバースローのまま体の使い方を修正するのは難しいです。アンダースローで強い球を投げていると、オーバースローの時の課題を選手が理解して投げ方が直っていきます」と話す。

 選手の悩みを指導者が指摘すると、一層深刻になってしまう可能性もある。イップスは、その典型と言える。選手の特徴に違いがある以上、投げ方の正解は1つではない。

(間淳 / Jun Aida)

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