甲子園出場は「プロ野球より華」 白紙1枚で一変…学童名将が説く“利用する”稼ぎ方

多賀少年野球クラブ・辻正人監督【写真:橋本健吾】
多賀少年野球クラブ・辻正人監督【写真:橋本健吾】

辻正人監督熱弁…多賀少年野球クラブは「プロ野球を目指さないチーム」

 プロを目指すクラブチームがあるならば、“目指さない”クラブチームもあっていいかもしれない。所属する選手が130人を超え、全国大会優勝3度を誇る屈指の強豪学童チーム、滋賀・多賀少年野球クラブの辻正人監督が15日、埼玉、東京を拠点にスクールを展開する「フルスイングベースボールスクール」に向け、オンライン講習会を行った。

 議題に上がったのは「子どもたちが目指すゴールの設定」。辻監督は、自身が20歳時の1988年に設立した多賀少年野球クラブについて、「プロ野球選手を目指さないクラブチーム」と言い切る。

「プロ野球選手になるよりも甲子園に出る方が華。子どもたちには“甲子園ぐらいには出とけよ”と言います」

 プロではなく甲子園――。その考えに至った背景に、2人の息子が辿った経験がある。長男の天薫(たかまさ)さんは滋賀屈指の進学校・彦根東で、次男の心薫(もとまさ)さんは大阪屈指の強豪校・履正社で、いずれも甲子園に出場。その後、天薫さんは国立の広島大、心薫さんは野球推薦で同志社大へ進んだ。

 特に心薫さんは、2014年選抜で三塁手として準優勝を経験するなど、聖地を2度経験。進路を決める際、「別にプロ野球選手になるわけじゃないから」と就職を希望したが、岡田龍生監督(当時、現・東洋大姫路監督)から進学を勧められ、「親とよく相談して、進みたい大学を書きなさい」と白紙を渡されたという。

「野球を本気でやった」からこそ開ける進学先・就職先がある

「てっきり東京の大学に進むと思ったんですけど、関西に残ると。それじゃあ、野球でここまで評価を上げられたのだから、日本で1番の歴史を持つ私立大学の同志社大を勧めました。難関大学に入ることができたのは、野球を本気でやってきたからこそです」

 心薫さんは進学した同志社大で1年秋に一塁手、2年春に外野手で2季連続ベストナインを獲得。4年時には副将も務めた後、大手企業に入社した。

「彼がもし野球をやっていなかったら、今の就職はないんですね。だから、野球で稼ぐというのは、プロだけじゃなくても、こういう稼ぎ方もあるということです」

 甲子園に出場した事実は、時として「営業の力になる」という。多賀少年野球クラブはこれまで26人の甲子園球児を輩出。息子2人も、その中に含まれている。

「だから“甲子園やったらみんな出られるで”っていうのが口癖です(笑)。プロ野球選手っていうキーワードがないのが、ウチのチームの特徴です」

 昨年のWBC世界一で日本中が盛り上がったように、野球好きは多く、仕事先で話が弾むことも少なくない。野球で稼ぐのではなく、野球を“利用して”稼ぐことのできる社会人へと成長してもらうことこそが、辻監督の願いだ。

(内田勝治 / Katsuharu Uchida)

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