野球王国にはびこる“異様” 怒声に試合過多…旧態依然への危機感「潰さないかん」
四国IL・徳島インディゴソックスがアカデミー開校…テーマは「破壊」
かつて「野球王国」と呼ばれ、高校野球などでも球史に残る数々の名勝負を演じてきた四国地方だが、春の甲子園では2004年に済美(愛媛)が、夏は2002年に明徳義塾(高知)が制して以降、長く頂点に立つ学校が現れていない。1980年代に「やまびこ打線」で一時代を築いた池田や、徳島商、鳴門などの古豪・名門を擁する徳島県もまた、近年は春夏甲子園共に1、2回戦敗退が続いている。
足元の基盤となる同県の少年野球界もまた、競技人口減少に直面するなど心もとない。しかし、減少の要因は少子化だけでなく、子どもたちへの“指導文化”にも問題があるのではないか。そう指摘するのが、四国アイランドリーグplus・徳島インディゴソックスの球団社長・南啓介氏だ。「30年くらい前の指導をしているのでは、と感じることもあります」と危機感を抱き、それが新たに開校した野球スクールの理念にもつながっていると語る。
同球団では、公式戦を年間68試合こなす傍ら、野球教室を毎年100回ほど開催し、地域の子どもたちの成長を後押し。京都府出身で、近畿大卒業後にオーストラリアでのプレー経験も持つ南氏は、2015年末の球団社長就任後から指導者、保護者、子どもたちの声に耳を傾けてきた。その中で、競技人口減少の要因は、子どもの人数減少に加えて、旧態依然な体質の少年野球チームが点在していることではないかと感じたという。
「チームによっては今でも1日に3、4試合もやったり、『上から打て』『しっかり投げろ』と怒鳴っていたり。それに対して子どもたちは、なにが正しいのかわからずに、偉い親御さん、怖い監督やコーチに気を遣いながら野球をやっていて、それが当たり前になっている。僕から見たら異様なんです。本当に子どもたちが可哀想と思うことがあるんです」
勉強して変わるべきは大人…現状にメスを入れられるのは“子どもたちの言葉”
南氏は「この(悪しき)“文化”をなんとか潰さないかん」と、言葉に力を込める。さまざまなカテゴリーにおいて「県内の野球界を牽引して行く」という同球団の使命を果たすべく、昨年夏に室内練習場「Indigo Technical Factory(インディゴ・テクニカルファクトリー)」をオープン。それと同時に開校したのが、小・中学生を対象とした野球スクール「インディゴアカデミー」だ。
アカデミーが掲げるテーマは“破壊”。同球団で2016年から2020年までコーチを務めた駒居鉄平氏(元日本ハム)が講師に就任し、指導している。南氏は「プロの知見も交えた最先端の野球、その先の未来を見せてあげることで、子どもたちが自分のチームに戻ったときに、『監督、言ってること間違ってるで』と、正していってほしい」と、アカデミー生たちへ願いを託す。
「ここに通う子どもたちには将来的に、親御さんにも指導者に対しても、ディベートができるようになってほしい。大人の間違えていることを論理的に指摘できれば、親、監督、コーチも勉強するのではと思っています。もしかしたら発言した子どもをきっかけにチームが崩壊するかもしれません。でも、良くなってほしいから“破壊”をするわけです。数十年前に通用していた指導のままでは、時代を停滞させて、子どもたちのためになっていない。大人が頑張らないといけないんです」
昨年は前・後期優勝、ソフトバンク杯、年間総合優勝の4冠を達成。さらにドラフト会議で過去最多の6選手が指名されるなど、2013年から11年連続で所属選手をNPBへ輩出している同球団。その育成手腕に注目が集まっているが、「僕たちも奢らずに、進化し続けないといけないなと思っています」と南氏。
振り返れば、池田を率いた名将・蔦文也監督も、当時としては珍しいウエイト・トレーニングをいち早く導入するなど、先進的な練習や思考を取り入れ結果を残してきた。慣習に固執せず、先見の明を持つ人材育成へ、徳島インディゴソックスは地元の子どもたちの未来も照らしていく覚悟だ。
(喜岡桜 / Sakura Kioka)
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