中学野球で“怪我しやすい”部位 年齢ごとに特徴も…選手を悩ませない「計画性」

巨人の野球振興部長で高崎中央ボーイズ監督を務める倉俣徹氏【写真:高橋幸司】
巨人の野球振興部長で高崎中央ボーイズ監督を務める倉俣徹氏【写真:高橋幸司】

中学生の怪我予防…硬・軟式の垣根越えたGアカデミーセミナーで語られたこと

 伸び盛りの中学野球選手にとって、技術の習得に劣らず重要なのが、怪我の防止と食事だろう。巨人が運営する「ジャイアンツアカデミー」は1月27日、都内で小学生以下の会員とその保護者約130人を集め、「中学生時代をどう過ごすか」をテーマにセミナーを開催した。

 講師として参加したのが、巨人の球団野球振興部長のかたわら、自宅のある群馬県高崎市で硬式野球チーム「高崎中央ボーイズ」の監督も務める倉俣徹氏、江戸川区立上一色中軟式野球部監督の西尾弘幸氏、今月発足したばかりの「ジャイアンツU15ジュニアユース」の代表を務める大森剛氏の3人。ここでも怪我の防止と食事が話題に上った。

 高崎中央ボーイズをチーム創設以来22年間指導してきた倉俣氏は、豊富な経験から「選手の怪我には年齢ごとに特徴があります。小学5、6年生は肘を痛めることが多く、中学1、2年生は膝の怪我、中学3年生になると肩の怪我が増えるので、そこに対しての予防が重要になります。予防で一番大事なのは柔軟性。計画的に育てる意識を持って、最新のスポーツ科学に則り、いろいろなデータを取りながらトレーニングを行っています」と話す。

 西尾監督は、上一色中野球部を率いて全国中学校軟式野球大会で準優勝2回、3位2回の安定した成績を誇り、2022年の全日本少年軟式野球大会では全国制覇を達成した。

 さすがは実績があるだけに、公立中学では異例と言えるほど指導陣が充実している。「私が主に打撃、若い教員2人がコーチとして守備を担当。それにトレーニングコーチ(塩多雅矢氏)に月3~4回来ていただき、ピッチングや、ストレッチなどフィジカルの指導をお願いしています。トレーニングコーチが指導したことはYouTubeに上げて、選手たちが家庭でも復習できるようになっています」。

 さらに、投手については「定期的に肩や肘を理学療法士の方がチェックし、怪我をした時にも対応していただいています」と西尾監督は説明する。きめ細かい指導で、怪我を最小限に抑えようと努めている。

上一色中軟式野球部監督の西尾弘幸氏【写真:伊藤賢汰】
上一色中軟式野球部監督の西尾弘幸氏【写真:伊藤賢汰】

「3年間で20キロ増やすイメージ」と倉俣氏…西尾氏は「どんどん食べなさい」

 食事については、倉俣氏が「最近の中学生の身長は3年間で平均20~25センチ伸びると言われている中で、体重は個人差もありますが、1年間に5~7キロ増やすのが良いと考えています。入団説明会でも保護者の方々に『50キロで入団した子は70キロで卒業していくイメージ。食事は相当重要です』と申し上げています」と具体的な数字を挙げる。

 個人差に応じて、無理をさせずに成長を促すことも大事。「発育、発達の成長スピードは最大で4歳差があるといわれています。つまり小6で中3の体格の子がいれば、中3でも小6くらい小柄な子もいる。晩熟の子には『高校に行ってから伸びる』という声掛けが必要と感じています」と倉俣氏は言う。

 食事に関しては、西尾監督は「中学には給食があります。栄養のバランスもいいから『どんどん食べなさい』と言っています。江戸川区では昨年から給食が無償化されたので、なおさらです」と笑う。こちらにも成長が遅く悩む選手がいるが、「『いま大きい子も小さい子も、いずれは同じになるよ』といつも声を掛けています」と強調する。

「コロナ禍前は、栄養学の専門家の指導を受けていましたが、大人数で集まることが難しくなって以降、中学OBの栄養士さんと保護者が個別に連絡を取り、相談できる態勢を整えています」とも付け加える。

 こうした好例を受け、4月に中学1年となる初代メンバー24人で2月から練習を開始した「ジャイアンツ U15 ジュニアユース」の大森代表は、「怪我予防を重視し、発育・発達別のトレーニングメニューを考えています。体格や成長具合に合った練習を追求していきたい。動作解析で故障の前兆がわかるといわれているので、そういったスポーツ科学をどんどん利用していきたい」との方針を掲げる。

 一方で「スマホ世代の選手たちなので、スマホのアプリを活用していきたい」と語り、「アプリを通して、指導者全員と1人の選手、あるいは1人の指導者と1人の選手が、グラウンド以外でも、普段の生活上の悩みや自主練習の相談、測定した数値のフィードバックなどを行っていきたい」とも。

 怪我の予防も食事も、最新のスポーツ科学の知識を生かし、個人差を考慮に入れて行うことが重要と感じさせられる。そして硬式・軟式に関わらず、多くの中学野球チームが横のつながりで情報を共有することができれば、球界全体の発展につながりそうだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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