野球チームは「一般社会の縮図」 派閥やいざこざも…準備期間で付けたい“分析力”

東加古川レッドアローズ代表兼GMを務める元オリックス・高橋功一氏【写真:橋本健吾】
東加古川レッドアローズ代表兼GMを務める元オリックス・高橋功一氏【写真:橋本健吾】

東加古川レッドアローズ代表兼GMの元オリックス・高橋功一氏の育成論

 プロ野球の世界を生き抜いた後に待っていた“第2の人生”が、現在の指導のきっかけとなっている。兵庫のヤングリーグ「東加古川レッドアローズ」で代表兼GMを務める、元オリックスの高橋功一氏。現役時代は164試合に登板し、1995年の日本シリーズにも先発した右腕だ。「指導のベースは観察、分析。甲子園を目指すことも大切だが、野球を長く続けてもらうことを一番に考えている」と、指導方針がブレることはない。

 高橋氏は1989年ドラフト3位でオリックス・ブレーブス(現オリックス・バファローズ)に入団。5年目の1994年に1軍デビューを果たすと、1995年には先発として自己最多の7勝をマークし、オリックス初のリーグ優勝に貢献。同年、巨人との日本シリーズでは第5戦に先発するなどチームを支えた。

 2001年に現役を引退すると、翌年からスコアラーとして球団を支え2009年に退団。野球塾の指導者を務め、同チームを設立し今年で11年目を迎えた。技術的な部分はもちろん必要だが、指導の根本は「相手や自分を分析すること。根拠を持ち練習に取り組む」ことだという。

 チーム創設当初は公式戦、練習試合を含め年に1勝するのがやっと。そこで、当時の選手には試合での全打席でカウント、コース、打球方向などを記入した分析シートの提出を求めた。「どのカウントでヒットが出ているか。結果を出すためには、どこを意識しているのか。そこを突き詰めて対話することで根拠を持ってバットを振り、投げて、守ることを自覚してほしかった」。

 子どもたちは自己分析を徹底し、練習の段階から“考える野球”を行うようになった。

「甲子園やプロを目指すこともいいが、全ての球児がそうかというと違う」と高橋氏

 チームは大所帯ではなく、基本的には1学年18人をめどに受け入れ、経験と練習量を積ませることを第一に考えている。小・中学生の期間は「あくまで高校野球に向けた準備期間」と捉えている高橋氏。勝つことで得られるものもあるが、大切なのは“社会に出ても通用する人間教育”だという。

「子どもたちによく言うのは、野球チームは一般社会の縮図だよと。子どもの段階では理解するのは難しいですが、派閥やコミュニティ、先輩後輩の人間関係に、もめごと、いざこざなど。社会で起こりえることが圧縮されている。高校、大学、社会人にいけば、もっと経験を積むことになる。だから、今ここで実感して解決する術を身に付ける必要があると思っています」

 教え子には強豪校に進む選手もいるが、公立高校でレギュラーになり主将などの肩書をもらう選手も多い。「選手のピークをどこに持っていくか。うちのチームの子たちは、どちらかというと遅咲き。時間がかかってもいい。甲子園やプロを目指すこともいいが、全ての球児がそうかというと違う。せっかく携わった子たちなので、充実感に満ちた野球人生を送ってほしい。それが私たちの使命だと思う」。

 昨年はチームで初めて中学生硬式野球の関西ナンバーワンを決める「タイガースカップ」に出場し、甲子園の地を踏んだ。「うれしかったですね。お前たちもこんな顔で野球ができるんじゃないかと。普段からやりなさいよといいましたよ(笑)」。

 プロ野球の世界で酸いも甘いも経験した高橋氏は、将来の野球界を背負う“金の卵”をこれからも育成していく。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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