たった5cmで打球速度“激減” 新バット対応へ、「投手よがり」をなくす科学的根拠

東京農業大学の勝亦陽一教授【写真:間淳】
東京農業大学の勝亦陽一教授【写真:間淳】

高校野球に新基準の“飛ばないバット”導入…投球スタイル変化の可能性

 球速や制球力の向上は、必ずしも結果と直結しない。野球のパフォーマンスを上げる方法を研究し、少年野球からプロ野球まで選手をサポートしている東京農業大の勝亦陽一教授が、1月27日、静岡県掛川市で小学5年生以上の投手と投手を目指している選手対象の講演を開いた。選手たちには「投手は“打者と対戦する”意識が大事」と訴えた。

 今回開催した講演のテーマは「科学的根拠に基づく投手の育成方法」。参加した小学5年生から大学生までの選手に、力をロスせず投球に伝える体の使い方やトレーニング方法などを解説した。その中で、勝亦教授はタイムを競う陸上などとは違う野球の競技特性を強調した。

「どういう投手になりたいか質問すると、『球が速い投手』や『コントロールが良い投手』と答えが返ってきます。それも大事ですが、打者がどんなスイングをして、どのような打球が飛ぶのかを理解する必要があります」

 勝亦教授は球速や制球力を高める必要性を認めながらも、投手には打者を観察し、打者との勝負に勝つ方法を考える意識が重要だと説いた。

 例えば、バットの芯に当てさせない投球を極めれば、失点する可能性は低くなる。バットの芯から左右方向に5センチずれるだけで、打球速度は約15キロも落ちるという。アウトを取る方法は三振だけではないのだ。バットの上下方向にずらす投球ができれば、さらに打球速度は遅くなり、ファウルや空振りの確率も高くなる。

 小・中学生に人気の“飛ぶバット”は、バットの芯に当たらなくても打球が飛ぶ。一方、高校野球は新基準の“飛ばないバット”が導入された。勝亦教授は「高校の関係者に話を聞くと、芯に当たった時は従来のバットも新基準のバットもあまり変わらず、芯から外れると新基準のバットは打球速度が落ちるそうです。今後、投手は『バットの芯を外せば打ち取れる』という考え方になっていくと思います」と語る。

初球ストライクで投手が圧倒的優位…打者心理を読む力がカギ

 打者の心理を読む力も、投手が結果を出すために重要になる。軟式の平均的な中学生であれば、0ストライクの時は打率が3割ほどなのに対し、2ストライクになると1割程度になるという。少年野球もプロ野球もカテゴリーを問わず、この傾向は同じ。勝亦教授は「速い球を待っている打者に遅い球を投げるなど、打者が狙っていない球で1ストライクを取ることが大事です」と話す。そして、こう続ける。

「投手自身が良い球、速い球と思っていても打者にとってはちょうど打ちやすいということもあります。そのような球の場合は、別の球種を投げても対応されてしまいます。球種にかかわらず、打者が狙っていないと打てない、特徴のある球を持っていると投手は優位に立てます」

 自分が理想とする球を投げれば、打者を抑えられるわけではない。球速や制球力アップは目的ではなく“打ち取る手段”であり、投手が結果を出すには打者との勝負に勝たなければならない。

(間淳 / Jun Aida)

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