大谷グラブ「使い方わからない」 はめ方逆の子も…高校球児の手助け「大きな意味ある」

富士高校が行った野球教室の様子【写真:間淳】
富士高校が行った野球教室の様子【写真:間淳】

キャッチボール初体験の子も楽しく…静岡・富士高校が野球教室開催

 きっかけは「大谷グラブ」だった。静岡県富士市の県立富士高校野球部が17日、地元にある岩松北小学校の児童を対象とした野球教室を開催した。ドジャース・大谷翔平投手から全国の小学校に贈られたグラブが届いたものの、キャッチボールの仕方がわからない児童が多く、野球振興の実績がある富士高校の協力で交流が実現した。

 大谷グラブは1月、富士市の小学校にも届いた。岩松北小学校でも児童が使える仕組みをつくった。ただ、想定外の事態が起きた。グラブの使い方がわからず、キャッチボールができない児童が多かったのだ。

 右利き用のグラブと言って手渡すと、グラブを右手にはめるケースも珍しくなかったという。かつて高校球児だった望月敏行校長は「相手を思いやる気持ちが大切になるキャッチボールを、子どもたちに経験してほしいと思いました。そこで、富士高校野球部に力を貸してくださいとお願いしました」と語る。

 岩松北小学校から2キロほどの距離にある富士高校は、静岡県東部屈指の進学校で、野球を通じた地域貢献に力を入れている。三島南高校で園児や小学生を対象にした野球教室を開いていた稲木恵介監督が、2022年4月に富士高校に赴任してからも取り組みを継続。おととし12月には、文武両道と野球振興を体現する富士高校の存在を知った元メジャーリーガーのイチロー氏が訪問している。

 今回の野球教室には、岩松北小学校の1年生から6年生まで31人が参加した。そのうち野球チームに所属しているのは1人だけで、キャッチボールの経験がない児童も多かった。富士高校の選手たちは児童の学年に応じて4つのグループに分け、それぞれ異なるメニューを考えた。

 低学年のグループは鬼ごっこでウオーミングアップし、遊びの要素を取り入れてボールを投げたり捕ったりする内容を組んだ。一方、高学年はキャッチボールやペットボトルを使った的当てなど、より野球に近い内容にした。どのグループでも危なくないように柔らかいボールを使い、最後はゲーム形式のメニューで野球の楽しさを伝えた。高校生が野球振興に取り組む意義について、末高慎之介主将がナインの気持ちを代弁する。

「自分たちの取り組みは日本全体で見れば小さなことかもしれませんが、地域にとっては大きな意味があると思っています。野球教室の回数を重ねていけば、野球に興味を持つ子どもが増えると信じています」

子どもたちと交流する富士高校ナイン【写真:間淳】
子どもたちと交流する富士高校ナイン【写真:間淳】

「高校野球への影響避けられない」…小学生の競技人口減少に危機感

 選手たちは野球人口減少を肌で感じている。末高主将も、岩松北小学校出身の藤田理一副主将も、「自分たちが小・中学生の頃よりチーム数が減っている」と口をそろえる。地域には部員不足による合同チームが増えているという。藤田副主将は「野球を高校から始めるハードルは、かなり高いと思います。小学生の競技人口が減れば、高校野球への影響は避けられません」と危機感を口にする。

 野球教室の前には、選手たちが児童に勉強を教える時間も設けた。国語と算数のプリントを準備し、学年別に教室を分けて指導。年度末の時期だったことから学年の総復習をテーマに、児童の質問に答えた。参加した保護者からは「子どもは年齢の近い高校生に親しみを感じ、勉強も野球も楽しんでいました。富士高校の生徒さんだからこそ、勉強の仕方を教わるチャンスと思って参加しました」と感想が寄せられた。

 大谷グラブがなければ、野球に興味を持ったり、野球教室に参加したりしなかった児童もいただろう。高校球児と小学生の間に“新たな縁”が生まれた。

(間淳 / Jun Aida)

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