競技人口増へ「学童野球を変えないと」 親子とも興味あれど…根強い“犠牲”の先入観

富士高校野球部の稲木恵介監督【写真:間淳】
富士高校野球部の稲木恵介監督【写真:間淳】

2014年から振興活動…富士高校・稲木恵介監督が実施したアンケートの中身

 園児や小学生に向けた野球振興活動の背景には、学童野球の現状に対する強い危機がある。静岡県富士市の県立富士高校野球部が17日、地元の小学生を対象にした野球教室を開催した。野球を通じた地域貢献を掲げ、長年活動を続けている稲木恵介監督は「学童野球を変えていかないと、野球人口は今後もさらに減ってしまう」と語る。

 富士高校野球部が地元の園児や小学生を対象にした野球教室を開催するのは、今回で10回目となる。岩松北小学校から、ドジャース・大谷翔平選手から届いたグラブを活用したいという依頼を受けて快諾した。

 富士高校は稲木監督が赴任した2022年4月から野球振興を始めた。前任の三島南高校で力を入れていた取り組みを、富士高校でも継続した形だ。今でこそ高校球児が園児や小学生と交流する機会は珍しくないが、三島南高校でスタートしたのは2014年。全国のモデルとなった。

 稲木監督が野球振興を続ける理由には、深刻な競技人口減少に歯止めをかけたい思いがある。だからこそ、野球経験者よりも園児や小学校低学年といった未経験者との交流に重点を置く。実際、野球教室をきっかけにグラブを買ったり、チームに入ったりした子どももいるという。

 だが、稲木監督は活動を続ける中で、競技人口が増えない大きな要因に、学童野球の問題があると気付いた。学童野球の現場を見たり、野球教室に参加した保護者からの声を聞いたりすると、“負のイメージ”が根強く残っている。稲木監督が語る。

「野球教室の際には保護者にアンケートをお願いしています。その中で学童野球は練習時間が長く、保護者も大変そうなのでチームに入るハードルが高いという声が多いです。学童野球は、子育てを終えて時間に余裕がある指導者の“余暇活動”になっている面があると感じています」

17日に富士高校野球部が行った野球教室の様子【写真:間淳】
17日に富士高校野球部が行った野球教室の様子【写真:間淳】

土日の丸一日練習がハードル…「半日ならやってほしい」の声も

 アンケートの中身を見ると、野球に興味がある子どもや子どもに野球をやらせたい保護者は、思っていた以上に多いという。最大のネックになっているのが練習時間。土日が両日とも丸一日練習になると、野球以外の時間はなくなる。学童野球のチームに入るには、他を犠牲にする覚悟が求められると認識されている。

 稲木監督は「保護者からは半日練習なら野球を子どもにやってほしいという声があります。朝から夕方まで練習になると、勉強と両立したい、他の習い事もやりたいという子どもや保護者にとって、野球は選択肢から外れてしまいます。野球以外のことにも挑戦して、野球も頑張ろうという方向性にしなければ、競技人口はどんどん減ってしまいます」と力を込める。そして、こう続ける。

「土曜半日のチーム、土日半日のチーム、土日終日のチーム。バントを多投するチームにホームラン狙うフルスイングチーム。保護者が深く関わるチームと送迎だけのチームなど、様々な選択肢があり、チームの移籍も柔軟にできるようになってほしいと思っています。全国的には新しい形のチームが存在し始めていますが、地方は特に旧態依然とした形が継続されているように感じます」

 長時間練習の問題は高校野球にも共通している。本来、学校生活の一部である部活が、生活の大半を占めるケースがある。稲木監督は富士高校が静岡県東部有数の進学校ということもあり、限られた時間で最大限の効果を生む方法を追求している。居残り練習の時間をつくらず、自宅で勉強したり、睡眠を確保したりできるようにする。

 土日は半日練習、ゴールデンウイークは完全オフの日をつくり、野球以外の時間を楽しめる時間を設けている。稲木監督は「多くの生徒は大学で一人暮らしをするので、高校生のうちに家族や友人と過ごす時間も大切にしてほしいと思っています。部活は高校生活を充実させる1つの手段であって、全てではありません」と意図を説明する。

 全国の小学校に届いた大谷グラブは、野球に興味を持つきっかけになる。しかし、長時間練習をはじめとする野球に対するマイナスイメージが払しょくされなければ、競技人口の増加にはつながらない。

(間淳 / Jun Aida)

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