野球人口“減少”なのに…良い選手増加のワケ 不満と怠慢なくす米国育成の「対価」

左からオーナーのグレッグ氏、筆者の鈴木優氏、ゼネラルマネジャーのタイラー氏【写真:筆者提供】
左からオーナーのグレッグ氏、筆者の鈴木優氏、ゼネラルマネジャーのタイラー氏【写真:筆者提供】

元オリックス・鈴木優が米国チームの監督に聞く、これからの少年野球のあり方

 オリックスと巨人で投手としてプレーし、2022年限りで現役を退いた鈴木優氏は現在、「パ・リーグ インサイト」のスタッフを務め、米国に留学中だ。現地の少年野球事情についてレポートしてくれた。

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 先日、米国オレゴン州ポートランドにある少年野球チーム「Mound Time」(マウンドタイム)のオーナーであり、監督のグレッグさんに話を聞く機会をいただいた。「Mound Time」は米国代表選手を輩出するなど、国内でもトップクラスの少年野球チーム。選手育成の仕組みや、「野球離れ」について思うことを聞かせてもらった。

 はじめに「Mound Time」の規模について尋ねると、「全部で18チームあり、年齢とレベルによって全員が試合に出られるように振り分けています。コーチの人数は30人いて、2人は正社員で残りの28人はパートタイムの方々で教えています」とグレッグさん。

 もうこの情報だけで日本の少年野球との規模の違いがわかるが、オレゴン州の北に隣接するワシントン州シアトルには、ここよりも多い30チームを持つところもあるというから驚きだ。

 しかし、その規模だからこその大変さも当然あるようだ。

「それぞれのコーチによって教え方・考え方が違うので、それを同じ方向に向けるのが大変です。でも、このチーム数を持っていてもクオリティは低くしたくないし、選手1人1人にしっかり向き合うことは絶対にしなくてはなりません」と思いを語る。

保護者に対しての説明は、今の時代は絶対に大切

 日本のプロ野球では基本的に1軍・2軍、多くてソフトバンクの4軍だが、2軍までの規模でも意思疎通を図るのが難しい実情を見てきたので、これだけ多くの選手・チームをまとめているのはすごいことだ。

「また、保護者に対しての説明は、今の時代は絶対に大切だと考えています。高いお金を払ってもらっているから、親とも対話をし、理解してもらうという努力もしています」

 選手数が多くても、保護者も含めて会話を交わし、各個人にとって最適な練習方法などをしっかり考えて運営しているのだ。では、練習メニューは誰がどのように考えているのか。

「私が20年経験してきたことを踏まえて、1年を4つの期間に分け、各期間で何を鍛えるかを考えます。例えば、シーズン終了後の秋は新しい取り組みを、冬は一切投げずにアジリティトレーニングを、春は投げ始めや多く打球を打つことを、夏は試合でのプレーに専念するために体を良い状態に保つことを、というように、場当たり的ではなく、その子の将来のために1年を通したメニューを組んでいます」

 日本の少年野球では、シーズンごとに分けて個々に合うメニューを考えてくれるチームは少ないと思う。特に怪我もしやすい子どもは、大人がしっかりとメニューを管理しながら練習を行うことが大事なのだと考えさせられた。

「Mound Time」の室内練習場【写真:筆者提供】
「Mound Time」の室内練習場【写真:筆者提供】

入団前に“パッション”を判断…適性を把握しレベルに合った大会へ

 これほどチーム数の多い「Mound Time」だが、入りたい子どもが誰でも入れるわけではない。

「希望があっても、枠が埋まっていたら断ることもあります。もし枠が空いていても、入る前にまず練習に参加してもらい、そこで選手の実力と野球へのパッションを見て判断します。各チームのメンバーが決まると、オフシーズン中に、どのチームが翌シーズンのどの大会に出るか、実力や家庭環境などの適性を見ながら決めていきます」

 選手それぞれに全力で向き合うからこそ、やる気のある子どもを預かりたいし、適正レベルの大会に全員が出場できるように考えられていることを聞き、「そこまでやるのか」と感心してしまった。

 こうしたチーム運営の中身や膨大な量のメニューを、オーナーともう1人のパートナーだけで考えているという。とてもボランティアではできない、大変な作業だ。

野球界の未来のために必要なことは?

 そして最後に、日本球界の未来のために、ぜひ聞いてみたい質問を投げかけた。日本では野球を「見る」人が増えている一方で、野球を「プレーする」選手の数が減っていることについてだ。

「実は、地域の部活動などでのプレーヤーは米国でも減ってきているんです。しかし、それとは逆に、良い選手が出てくるケースはすごく増えている。なぜかというと、私たちの経験の中で、選手の育て方がわかってきて、システムが確立されてきているからです」

「また、プライベートの会社としてチームを運営することが絶対に大事です。ボランティアのように慈善でやっていると、選手、親が文句を言うことはできませんし、怠慢な指導をする人が出てくるかもしれません。お金を払っていないと、選手や保護者にチームや指導者を選ぶ余地がありません。お金を払うことで選手、親がチーム、指導者を選ぶ立場になります。それによってレベルをキープし、運営するチームも頑張るようになります。その結果、全体の競争になり野球界のレベルを上げることになります」

 日本の少年野球や部活動にあるように、指導者が“ボランティア”では、できることに限界がある。自身の生活もある中で、指導の時間もつくらなくてはいけない。

 逆に、米国のように選手・保護者がお金を払うことで、指導者が“仕事として”教えられるようになれば、全力で指導にあたることができる。米国ではこのような「良いものにはしっかりとお金を払う」という考え方が、当たり前になっているようだ。

 日本の野球離れの原因として、ボランティアで行われているチームでの指導者の暴力や、保護者のお茶当番といった制度の存在をよく聞く。米国のシステムをそのまま当てはめることは難しいかもしれないし、すべて見習う必要はないかもしれない。それでも日本の野球界の未来を考えるならば、今までのシステムを改善していく意識を持つことが大切なのではないだろうか。

(「パ・リーグ インサイト」鈴木優)

(記事提供:パ・リーグ インサイト

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