長時間練習の日本「訓練、鍛錬多い」 小中学生の能力伸ばす“完璧求めない”メニュー

東京・北区の少年軟式チーム「BLOSSOM BASEBALL CLUB」【写真:チーム提供】
東京・北区の少年軟式チーム「BLOSSOM BASEBALL CLUB」【写真:チーム提供】

東京・北区の「BLOSSOM BASEBALL CLUB」は常識破りのコンセプトで選手育成

 一見、野球とは無関係に見えるトレーニングが未来へつながる。東京・北区で活動する小学生の軟式野球チーム「BLOSSOM BASEBALL CLUB」(ブロッサムベースボールクラブ)が、4月から中学部の「BLOSSOM BASEBALL CLUB ATHELETE」をスタートする。ダンスやライフキネティックを取り入れた育成で選手の能力を最大限に生かすには、中学生まで指導できる環境の必要性にたどり着いたからだ。

 週末の練習は4時間。しかも、野球用具を使わない時間も多い。「BLOSSOM BASEBALL CLUB」は、独自の方針で小学生の力を伸ばしている。チームを結成したのは4年前。立ち上げメンバーで、4月からは中学部の「BLOSSOM BASEBALL CLUB ATHELETE」で監督を務める石井翔平さんは、既存のものとは違ったチームを選択肢として示そうと考えた。

「日本はどちらかというと、訓練、鍛錬の練習が多いと感じていました。野球はミスしたら負けるという考え方です。でも、試合をすればミスは起こります。トーナメントではミスして敗退することもありますが、ミスを前提に考えた時、ボール回しやシートノックに長い時間をかける以外のやり方があるのではないかと思いました」

 石井さんが指導に取り入れる要素の1つが、脳を活性化させるドイツ発祥のトレーニング「ライフキネティック」だ。すでに一般的になっている競技もあるが、野球では取り入れているチームは少ない。石井さんは専門知識を学び、選手の指導に生かしている。

「ライフキネティックを学んで感じたのは、日本では1つの要素を伝えた時に完璧を求める傾向が強いことです。ボール回しの練習に象徴されますが、ミスなくこなすことを目指します。ただ、新規性のないことを繰り返すと脳は飽きて衰退します。私たちのチームでは新しい要素を加えて練習やドリルをこなし、選手には100%を求めていません」

 ライフキネティックはルールに従って体を動かす。例えば、頭の上で拍手をしながら両足でグー・チョキ・パーを順番につくる。この動きを基本に、手の動きを変えるなど難易度を上げていく。

 まずはルールを正確に把握する必要があるため、選手は集中して説明を聞いて瞬時に理解する。そして、ミスした時に、どこに問題があったのかを考えて改善方法を導き出す。石井さんは「ミスを楽しむメソッドなので、野球においてもミスを恐れる必要はないという思考になります。ゲーム感覚で上達法や裏技を探すので、楽しみながら頭が柔らかくなる効果もあります」と説明する。

「野球をできるだけ長く」…プロも生涯スポーツも見据えた指導

 小学生を対象としたチームにライフキネティックやリズムトレーニングを取り入れ、石井さんは一定の手応えをつかんでいる。一方で、野球の技術向上につなげるには、小学生の期間だけでは足りないと実感。そこで、4月から中学部「BLOSSOM BASEBALL CLUB ATHELETE」を発足した。

「実際の動きと脳の成長や考える力が結びついた時の方が、選手の力は伸びると感じるようになりました。小学生で取り組んでいる内容の難易度や強度を高めて、野球の技術に落とし込んでいくには中学部が必要だと考えました」

 石井さんが野球の練習以外の要素を取り入れるのは、小・中学生の時に動きのバリエーションを増やし、考える習慣を身に付けてもらうことにある。自身が社会人で35歳まで野球を続けた経験から「誰かに言われたことを守るよりも、指示やアドバイスをかみ砕いて自分なりの成長や楽しみにつなげる選手が、現役を長く続けていると感じます。私たちのチームでは将来を考えた指導を意識しています」と語る。そして、最終的に定めるチームのゴールがある。

「本人が野球をやりたいと思っている限りは、できるだけ長く続けてほしいです。日本のプロ野球やメジャーでプレーする夢があるなら、かなえてほしいですし、生涯スポーツとして草野球を楽しむことにも意味があると思っています。そのための基礎を小・中学生の期間に築いていける指導をし、成長する時に突き抜けられるように様々な練習を考えています」

 打撃や守備の練習を長時間繰り返せば、短期的には野球が上達するかもしれない。だが、未来に目を向けた中・長期的な指導は、選手が持つ可能性を広げる。

(間淳 / Jun Aida)

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