チームとスクール、“正しい指導”の板挟み 元プロ指摘「議論の時点でわかってない」
野球スクール運営…元日本ハム、阪神の田中聡氏は選手が悩まないよう方針を明確化
チームの指導と野球スクールの指導は、どちらが正しいのか。その答えを求めている時点で野球がわかっていないという。日本ハムや阪神でプレーし、現在は野球スクールで小・中学生を中心に指導している田中聡さんは、チームで活躍できる技術や知識を伝えている。
田中さんは2003年に現役引退後、指導者としてのキャリアをスタートした。指導する選手は園児から社会人まで幅広く、ジュニア世代の指導歴は15年を超える。現在は東京・羽村市で野球スクール「HERO-S」を運営している。
野球スクールに通う選手は、チームに所属しているケースが多い。田中さんのもとを訪れる小学生も同様だ。野球を教わる場所が複数個所ある場合、指導内容が異なり、選手が板挟みに悩むことが少なくない。スクールで習った打ち方や投げ方がチームで否定され、その逆も起こり得る。こうした問題に選手が苦しまないよう、田中さんは明確な方針を打ち出している。
「選手や保護者には、チームの指導もスクールの指導も、どちらも正しいと伝えています。どっちが正しいと議論する時点で、野球をわかっていません。チームの監督の要望に応えるのが戦力である以上、選手は監督が求めるプレーをできなければいけません」
大半の選手はチームで出場機会を得たり、活躍したりする目的でスクールに通う。だからこそ、田中さんは監督が起用したくなる選手の育成を掲げている。そこで重要になるのは「引き出しの数」。田中さんが理由を説明する。
動きやプレーの引き出しが多い選手ほど、チャンスをつかむ確率は上がる
「小学生、中学生、高校生とカテゴリーが変われば、チームも監督も変わります。その時、指導者が求めるプレーをできる選手とできない選手、どちらが起用されるかは明らかです。動きやプレーの引き出しが多い選手ほど、チャンスをつかむ確率は上がります。選手の将来を見据えて、引き出しを増やす指導を意識しています」
例えば打撃では大きく分けて縦系と横系、2種類のスイング軌道を教える。投手の左右を苦にしない練習、ゴロやフライを打つ練習もする。全打席で本塁打を放つのは不可能に近い以上、プレーのバリエーションを増やして指揮官の戦略や戦術にはまる可能性を高めるわけだ。田中さんは「技術は常に勝負の中から逆算していきます。特定の技術を身に付ければ必ず打てるという逆算ではありません」と話す。
試合で活躍するにはどんな打撃が必要なのかを、まずは考える。そして、どんな打球を飛ばしたいのかを導き出し、そのために必要な知識や技術を習得していく。結果が出なかった時は理由を分析し、新しいプレーの引き出しを増やしていく。
チームと野球スクールは対立する関係にはない。目的やゴールを見失しなった不毛な議論では、子どもたちは報われない。
(間淳 / Jun Aida)
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