腰への負担増す打撃での「禁止行為」 フォームは自由でも…成長期に避けたい“リスク”

大阪・和泉市の中学硬式チーム「南大阪ベースボールクラブ」【写真:チーム提供】
大阪・和泉市の中学硬式チーム「南大阪ベースボールクラブ」【写真:チーム提供】

中学硬式「南大阪ベースボールクラブ」が高学年対象の小学部を立ち上げたワケ

 甲子園常連校に毎年のように選手を輩出している大阪・和泉市の中学硬式野球チーム「南大阪ベースボールクラブ」は、6年前から高学年を対象にした小学部を創設した。試合には出場せず、目的は中学生に向けた準備。怪我につながる動きの修正を除いて、選手が好きなフォームでプレーさせている。

 南大阪ベースボールクラブは設立から13年が経った。出身選手は今春の選抜高校野球大会に出場した関東一や大阪桐蔭に進学するなど、全国各地の甲子園常連校でプレーしている。小学5、6年生による小学部を立ち上げたのは2018年だった。小学部のスタートは一般的な少年野球チームとは理由が違う。池西亮太監督が説明する。

「当時、年齢が2つ、3つ離れた兄弟がおり、保護者が土日に働いている家庭もありました。お兄ちゃんが中学生で私たちのチームに入っている家庭に『弟さんも預かりますよ』という意味合いで始めました」

 小学部の活動は土日の半日のみに限られる。現在は中学部に兄がいない選手も加入しているが、チームで大会に出場することはない。練習の目的は、中学で野球を続けるための準備と位置付ける。池西監督は「野球には個人とチーム、2種類の練習があります。小学部に勝利を目指すコンセプトはなく、個人のスキルを向上させることが狙いなので、練習時間は3時間で十分です」と説明する。

 普段の練習は縄跳び、綱引き、ケンケンパなどワイワイとした雰囲気でウオームアップを始め、キャッチボール、守備や打撃のメニューをこなす。守備練習は全員が同じポジションに就く1か所ノックをしたり、全員で投手をしたりする。打撃はマシンの球速や変化球を選手が自由に設定する。中学部の指導でも共通しているが、池西監督やコーチ陣が選手の動きで修正するのは「怪我につながる動き」に限られる。投げ方や打ち方を特定の型にはめることはない。

故障予防へトレーニングに励む選手たち【写真:チーム提供】
故障予防へトレーニングに励む選手たち【写真:チーム提供】

投げ方は「90度」…失敗の記憶を残さない指導

 投げ方であれば、右投げの選手はトップをつくった時に右肩と右肘の位置は横一直線にし、肘の角度が90度になる形を身に付ける。池西監督は「肘が下がると肘に負担がかかり、肘が上がると肩に負担がかかります」と指摘する。

 理想のフォームへの修正はラジオ体操の動きを取り入れたり、利き手と逆の腕で投げる練習をしたりする。普段と違う腕を使うと、どのように体を動かすと上手に投げられるのか理解しやすいという。

 打撃では力いっぱいスイングする「マン振り」を禁止にしている。小学生はもちろん、成長期の中学生にとっても腰への負担が大きく、故障のリスクがあるためだ。守備ではゴロ捕球の際、グラブをつけていない手でグラブに蓋をするような捕り方をさせない。指の骨折を避ける狙いがある。

 小学生はバットを振る時や球を投げる時に、腕だけに頼るフォームが多いので、体の特定の部分だけを使わないように助言、修正している。池西監督は「怪我のリスクがない動きであれば、選手の好きな形でプレーさせています。良い傾向が出ているのであれば、指導者の考え方を押し付ける必要はありませんから」と話した。

 小学生の指導では「失敗の記憶を残さないこと」も心掛けている。打撃練習でバットに球が当たらない選手には、打球が前に飛ぶまで投球を続ける。1セット10球などと球数を決めて全てうまく打てないと、「自分は打撃が苦手」と選手は思い込んでしまうという。池西監督が語る。

「失敗の記憶や動きを、頭や体に染み込ませないことが大事だと考えています。空振りを何回しても構わないので、できるようになるまで繰り返します。10球、20球と続ければ必ずバットに当たります。最初は10球に1回の確率だった場合、次は9球に1回を目指す意識を持たせます。選手たちには『失敗するから練習する』と伝えているので、他の選手の失敗を馬鹿にする雰囲気はありません」

中学部と一緒の練習で向上心を刺激…中学生にも相乗効果

 小学部の指導は、中学を見据えた個のスキルアップにある。ただ、実戦経験がないまま中学生になると選手は不安に感じるため、小学6年生の夏時点で野球を続ける意思のある選手は中学1年生の試合で起用している。

 また、中学部の練習に交じってシートノックやケース打撃などの実戦的な練習もこなし、チームで求められるプレーを覚えていく。中学生と一緒に練習することで、小学生には「もっと打球を飛ばしたい」「中学生みたいに速く走りたい」といった向上心が芽生えるという。一方、中学生は小学生に気を配ったり、質問に答えたりして成長につながる効果もある。

 選手の希望や家庭の事情はそれぞれ異なる。池西監督は、既存の小学生チームにはない形が、親子の選択肢の1つになればと考えている。

(間淳 / Jun Aida)

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