保護者会なし、退出自由…“ツール活用”で負担減 「家庭に圧かけない」チーム運営

東京・江戸川区の「城東ベースボールクラブ」の選手たち【写真:伊藤賢汰】
東京・江戸川区の「城東ベースボールクラブ」の選手たち【写真:伊藤賢汰】

2021年創設の城東ベースボールクラブ…マクドナルド杯東京大会初出場の急成長

「選手にも保護者にも、さらに言えば指導者にもストレスを感じさせない」運営を掲げ、ノー出席確認、ノー保護者会、試合ではノーサインという新興の軟式少年野球チームがある。東京都江戸川区の「城東ベースボールクラブ」。森糸法文監督に話を聞いた。

 城東ベースボールクラブが活動を開始したのは2021年4月。それでいて昨年の江戸川区学童軟式野球大会で3位となり、夏の東京都知事杯では2回戦、秋の東京都知事杯さわやか大会では準決勝に進出した。今年の江戸川区学童軟式野球大会でも3位に入り、全日本学童マクドナルド・トーナメント東京大会への初出場を決めた。チームは急速にレベルアップしている。

 普段の取り組みが実にユニークだ。まずは毎週土・日に行われる練習で、出席確認を行っていない。それどころか、練習の途中退出も自由。森糸監督は「出席確認にこだわると、体調が悪いにもかかわらず、無理をして練習に送り出すご家庭も出てくる。余計な重圧をかけたくありません。途中退出についても、他に習い事や用事があるかもしれないし、ご家族でお誕生日会があるかもしれない。理由をいちいち聞かず、参加のしかたは各家庭のご判断に委ねています」と言い切る。

 保護者会組織をつくらず、父母によるお茶当番、連絡係、会計係なども置いていない。「お手伝いが可能な方には、その場その場でご協力をいただいています。ただ、他のチームでは様々な当番が結構負担になっているケースがあります」と指摘した上で、「当番や係がいなくてもチームの運営が可能になるように、会計ソフトを導入し、クレジットカードや銀行引き落としなど、今の世の中にあるツールを活用しています」と背景を明かす。飲み物は基本的に各自持参で、チームとしても補充用の飲料は用意している。

 幼稚園児から小学6年生まで80人超が在籍。そのうち3割は土・日の習い事との掛け持ちで、日曜の午後だけ参加しているような子どももいるという。

城東ベースボールクラブの森糸法文監督【写真:伊藤賢汰】
城東ベースボールクラブの森糸法文監督【写真:伊藤賢汰】

「大人のサインで動かされるチームより、自分たちで考えるチームの方が強い」

 試合で監督、コーチはサインを出さないが、もちろん子どもたちを“放置”しているわけではない。森糸監督は「自分たちの目指す野球があって、それに則って子どもたちが主体的に動いています。盗塁、牽制、守備位置のポジショニングなどは、普段の座学でカバーしています」と説明する。

「最終的には大人のサインで動かされるチームより、自分たちで考えてゲームを進めるチームの方が強いと考えています」と強調。実際に試合で「送りバントの場面でも、相手の守備陣がシフトを敷いてチャージしてくればバスターをしてみたり、子どもたちは個々の判断で動けるようになってきました」とうなずく。

 子どもたちを極力自由にする代わりに、指導者には高いスキルを求めている。森糸監督を含む常任コーチ7人は、日本スポーツ協会(JSPO)の「軟式野球公認コーチ3」などの指導資格を取得。「全員が監督者として活躍できるほどの指導スキルを持っている、自慢のコーチたちです」と話す。これに加えて、子どもたちの父親の中から就任を買って出た“お父さんコーチ”が5人いる。ただし「お子さんと同じスケジュールで参加してもらうことを約束事にしていて、お子さんが体調や都合で休む時には休んでもらいます」。

 指導陣は余程危険でない限り、子どもたちに対して声を荒げたりしない。「選手個人を尊重しています。指導者の話を聞く時に、帽子を取らないといけないとか、人の目を見ないといけないとかは、各家庭のしつけの部分。僕らが強制して制限を増やしてしまうと、子どもたちにとって“つまらない空間”になってしまいますから」と森糸監督。

 そのためだろうか。城東ベースボールクラブの練習は休憩時間中でも、チームメートとじゃれ合い、駆け回る子どもが目立つ。「とはいえ、あれだけ自由に、わちゃわちゃしていても、私は合図のためにスマホにチャイムの音を録音していて、これを流すと、みんながちゃんと集まってきます。指導者が話し始めれば静かになりますよ」と目を細める。

 41歳の森糸監督は北海道出身で、東京都内でインターネット広告の代理店を経営するかたわら、ボランティアでコーチたちとともに子どもの指導にあたっている。

 城東ベースボールクラブを立ち上げる前は10年以上、別の少年野球チームの指導に携わっていた。「正直言って、歴史のあるチームには実績に裏打ちされた決まり事があって、ガラリと変えるのは難しい。ゼロから立ち上げたからこそ、今は自分の思うようなチャレンジができています」と手応えを感じている。

「同じ『楽』という漢字を使いますが、『たのしい』と『らく』は違うと思います。楽しく取り組めて、かつ技術上達につながる練習メニューを、これらもを提供していくつもりです」と笑顔を浮かべる森糸監督。このチームからどんな野球選手が育っていくのか、本当に楽しみだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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