「野球は初心者に優しくない」 昭和とは異なる環境…普及へ“あえて省く”基本要素
筑波大学で毎週開催…「ほしぞら野球教室」での初心者を楽しませる工夫
野球人口減少はもちろん、子どもたちの運動不足への危機感も叫ばれる昨今、野球のみならず、体を動かすこと自体に親しんでもらうには、どのような工夫が必要だろうか。茨城県つくば市の筑波大学構内で開催されている「ほしぞら野球教室」に、そのヒントが隠されている。鍵は、初心者にとってハードルが高い要素を、あえて省くこと。筑波大学体育系教授の川村卓先生(同大学硬式野球部監督)に話を聞いた。
「ほしぞら野球教室」は毎週水曜日午後5時半から行われ、未就学児から小学校高学年・中学生の初心者まで約40~50人が参加している。野球コーチング論を研究する川村先生の研究室の大学院生や野球部員が、約1時間半にわたって指導。子どもたちは初級、中級、上級と3グループに分かれ、投げる・捕る・打つの基本動作から実戦形式まで、それぞれのレベルに合わせて、学生たちと歓声を上げながら“野球”を楽しんでいる。
川村先生が教室をスタートさせたのは2005年。大学近辺で野球指導者が不足し、「大学で教えてくれる人はいないか」という要望があったことがきっかけだった。「元々、筑波大学は『近くて遠い』などと言われたり、近所の方々にもとっつきにくいイメージがありました。我々としては開かれた大学にならないと、という思いもありました」。
初めは少年野球の選手たちへの技術指導が主だったが、少子化や野球人口減少が問題視されるようになった時期でもあり、「野球未経験の子どもたちに楽しさを知ってもらいたい」と、初心者への指導に力を入れるようになったという。
キャッチボール要素をなくした、初心者も楽しめる「ならびっこベースボール」
ところが、「実際にやり始めてみると、ものすごく難しいことに気がつきました」。
一番の障壁はキャッチボールだ。野球はいわば、“キャッチボールの連続”でアウトをとっていくスポーツだが、捕ることも投げることもままならない初心者にとっては、その基本中の基本を成立させること自体が難しい。「打ったら三塁方向に走り出す子もいたり、ルールも複雑です。野球は初心者に優しいスポーツではないんです」。
昭和や平成初期の時代であれば、公園に人が集まれば草野球で遊んだり、テレビをつければ地上波で試合中継があったり、体の動かし方やルールが自然に身に付く“環境”があった。しかし、今はそうではない。野球の決まり事を覚えつつ、親しんでもらうにはどうすればよいか――。それが、川村先生や学生たちにとっての研究テーマともなっていった。
試行錯誤の中、具体的に初心者指導に取り入れたのが、「キャッチボール要素を省く」方法。例えば「ならびっこベースボール(あつまりっこベースボール)」だ。
打った選手は一塁ベース(または代わりに置いたコーン)を回ってホームベースに帰ってくる。5〜6人の守備陣は、打球を捕った選手のところに全員が集まって「アウト」とコール。どちらが速いかを競い、得点を争う。これならば、難易度の高い“キャッチボール要素”を排除しつつ、アウト・セーフのスリリングな魅力も楽しめる。ベースをダイヤモンド型に配置すれば、より野球に近い形になり、走塁の仕方も学ぶことができる。
参加費は月謝制ではなく都度払いに…保護者の“ハードル”も下げる
小学校低学年までは、こうした遊び要素を取り入れながら、並行してキャッチボールの基本も学び、3、4年生の段階で両者を融合して本格的に「野球」にしていく。実際に川村先生もこの効果を実感しており、「僕から見ても、こんなに上手になるのかと。子どもたちの吸収力はすごいと感じます」と語る。
また、「ほしぞら野球教室」の参加費は、月謝制ではなく、参加ごとの“都度払い”にしている。月謝制だと、保護者は「お金を無駄にしたくないから参加しないと」という心理になり、嫌がる子を無理に連れてくることになりかねないからだ。
「強制になってしまうと親もしんどくなります。まずはハードルを低くすることで、無理のない範囲で楽しんでもらうのが第一歩」と川村先生。将来、子どもたちが野球を続けてくれるに越したことはないが、それ以上に、体を動かす喜び、スポーツをする楽しさを知ってもらうこと一番の目的だ。親子にとっての“敷居”を下げることで環境を整え、「僕たちが昔、公園へ遊びに行ったような感覚で、子どもたちに来てもらえれば」と願っている。
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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