“水飲むな”の昭和の指導「なぜ?」 疑問を徹底追求…選手を“やる気”にする声かけ
2023年日本一の大阪・新家スターズ…「何事にも気づき、考えて行動すること」を重視
2023年の「全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」で初優勝を果たし、「高野山旗全国学童軟式野球大会」「くら寿司トーナメントポップアスリートカップ」も制して“全国3冠”を達成した大阪・泉南市の学童野球チーム・新家スターズは、チームスローガンに「人間力」を掲げている。その意味するところは何か。千代松剛史監督に尋ねると、「何事にも気づき、考えて行動すること」をその1つの意味合いに挙げる。
新家スターズは、チーム関係者の尽力、土地の持ち主の協力によって約10年前に完成した地元の専用グラウンドで練習を行っている。投球マシンを複数台据えた建屋やLED照明も備わり、平日練習も火・水・木の3日間、午後5時から約3時間行うなど練習量も豊富だ。しかし、決して闇雲に量をこなしているわけではない。「『なぜ?』と感じるところは、徹底的に追求しようと教えています」と指揮官は語る。
「例えば、『なぜこの場面で盗塁する?』と質問しながら、みんなで考えて話し合う。わからないままで前には進まない。そんな感覚ですね。それが試合での走塁に生きるのはもちろん、突き詰めて考えて行動することが、生きていく上での力になってくると思います」
疑問に感じることを放置しない。その根底には、監督自身が小さい頃に受けた“昭和の指導”を反面教師にしている部分もある。
「意味がわからんこと、いっぱいあったじゃないですか。『水飲むな!』と言われても、『飲んだほうが絶対にやる気出るやん』と思っていたし、『なんで野球はこんなに走らされるんやろう』と思ったこともある」。かつては、理不尽に感じても指導者に従うことが当たり前だったが、今は違う。選手たちの“はてなマーク”を打ち消し、前向きに導いていくことが大人の役割だ。
叱った選手とはしっかり話し合い…前向きな声かけが「やる気を起こさせる」
もう1つ徹底しているのが、「叱った選手とは、なぜ叱ったのかを、その日の練習のうちにしっかりと話し合い、笑顔で次の練習に来られるようにする」ことだという。
「昔ならば『顔上げろ』『負けてどないすんや』とか怒鳴って、『だからお前は心が弱い』とか追い詰める感じでしたけど、みんながみんな、ナニクソって乗り越えられるわけではない。怒っても最後には『お前に期待しているぞ』と声をかけてあげた方が、人間は絶対、やる気が出ると思うんです。それは、大人の仕事でもそうですよね」
褒めて、叱って、喜んで、泣いて……。人間の持つ喜怒哀楽をグラウンドの中に詰め込む。子どもを“子ども扱い”せず、ストレートに接する。「僕も人間だから、つい口調が強くなってしまうこともある。それならば、帰る時に『今日は俺が悪かった』と素直に謝ればいいんです」。器の大きさを持つこともまた「人間力」といえる。
昨年の日本一は、そんな指導陣と選手たちの“ストレートな”熱い思いが結実してのものだった。発火点はその前年、ベスト4で敗退した2022年大会にある。台風が近づく雨中の準決勝、当時5年生メンバーだった貴志奏斗選手の悪送球で逆転敗退。千代松監督は試合後、泣きじゃくる選手にあえて慰めの言葉はかけず、「もう1回ここに戻ってきて、やり返すぞ」と次期キャプテンの座を託した。
監督とともに二人三脚でチームを運営してきた吉野谷幸太コーチが、こう振り返る。
「監督にそう言われた貴志くんの姿を、周りの選手たちも見ているから結束力がありましたね。実際に貴志くんは1年間、『3番・投手』としてチームを引っ張ってくれましたし、『やり返したろう』という思いが全員にあった。あの負けた瞬間から、優勝への道が始まっていたんやと思います」
1人の力に頼るのではなく、9人+ベンチ全員で戦う、それが新家スターズの強みだ。今年のキャプテン・藤田凰介選手に聞くと、チームの特徴は「みんな仲が良いこと。監督も練習では厳しいけれど、普段はメッチャ優しいです」とのこと。そして、「守備もバッティングもまだまだ。声ももっと出していきたいし、メッチャ練習して日本一まで行きます」と力強く語ってくれた。
「何よりも子どもの成長が一番。まあ、成長、成長って偉そうに言っていますけど、その姿を見て、楽しんでいるのもありますから(笑)。高校生、大学生になって、またここに帰ってきてくれるのもうれしいですしね」と千代松監督。今年の全日本学童には前年優勝枠での出場が決まっているが、それでも今春の大阪府予選を勝ち抜き、自力で切符を手にしている。“全国3冠”王者に、死角はなさそうだ。
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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