報酬5万円、ビール販売…手本となる“地域文化” 部活動改革の悩み解く「発想転換」
中学軟式「川口クラブ」が“ドイツ式”で進める部活動の地域移行
成功のヒントはドイツにあった。埼玉・川口市で活動する中学軟式野球チーム「川口クラブ」は、部活動の地域移行で全国のモデルになる取り組みを進めている。課題山積で教育現場から悲鳴が上がる部活動改革に対応したアイデアは、地域クラブのスポーツ文化が確立されているドイツを参考にしているという。
場所、人材、費用。国が進める部活動の地域移行に、全国の学校関係者が頭を悩ませている。教員の働き方改革の一環で、部活は学校と切り離し、地域で運営する形へと転換している。だが、国の理想と地域の現状には大きな隔たりがある。地域クラブとして活動するための練習場所や指導者の確保、それらに必要な費用をどのように捻出するのか。答えは見えない。
そんな中、川口クラブは今すぐにでも部活を地域へ移行できる仕組みを整えている。参考にしたのがドイツのシステムだ。川口市立高校附属中学校の教員で、川口クラブのGMを務める村上淳哉さんは、過去に3年間、ハンブルクの日本人学校に勤務していた。その際、目にしたのが地域に根付くクラブチームの文化だった。
日本と違ってドイツには部活がない。野球に限らず、スポーツをしたい学生は地域のクラブチームで活動する。金曜日は昼過ぎに学校が終わるなど、日本よりも長い放課後の時間や土日を活用しているという。指導するのは外部コーチ。他に仕事を持っており、月に5万円ほどの報酬で指導者をしている。
帰国後、日本で部活動の地域移行の動きが進むと、村上GMはドイツを参考にした地域クラブを思い描いた。もう1人のGMで、川口市立芝東中学校野球部顧問の武田尚大さんらと協力し、川口クラブの骨格をつくった。スキルや経験に応じて選手をカテゴリー別に指導したり、中学校のグラウンドを練習場所に使えるように学校側と話し合ったりするやり方はドイツ式。川口クラブの指導者は教員だが、「兼職兼業届」を提出してクラブでは報酬を受け取っている。村上さんは、こう話す。
「ドイツは日本のようにベンチメンバーが多くありません。試合に出場できるように、自分のレベルに合ったチームを選びます。選手が望むカテゴリーでプレーしたり、同じくらいの力の選手と一緒にプレーしたりする環境を整える発想は、川口クラブに生かしています。また、ドイツはクラブが申請すると、行政が練習場所を割り当ててくれます。行政が協力する文化ができています」
試合会場でビールとソーセージ販売…チームで活動資金を集める工夫
地域クラブを運営するには当然、用具の購入や指導者への報酬など活動費が必要になる。ドイツでは選手からの会費に加えてスポンサーとなる地元企業の支援、さらにクラブ独自の工夫でお金を集めていた。例えば、野球では試合会場で観客向けにビールやソーセージを販売し、収益を野球の活動資金に充てる。
ドイツでは日曜日に、友人や家族と一緒にスポーツ観戦しながら、会話を楽しむ文化があるという。日本でも同じように中学生の試合会場でビールを販売するのは難しいかもしれないが、村上GMは「Tシャツなどのグッズを作って販売するなど、やり方はあると思っています」と可能性を模索する。
部活動の文化が根付く日本とドイツとでは、歴史や環境に違いがある。村上GMは「顧問が無償で指導する部活が続いている日本で、指導者に報酬を支払うことに反対する声はあると思います。活動場所とお金の問題もあります。ただ、今までの形を変えていかないと部活動の地域移行に対応できなくなってしまいます」と語る。
ドイツをモデルにする川口クラブが、部活動改革に悩む全国のモデルになろうとしている。
(間淳 / Jun Aida)
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