「野球教室で野球人口は増えない」 北の大地で急拡大…親子の敷居下げる“独自ルール”
北海道発、小学校中学年向け「SUNYON BASEBALL」…参加者は続々少年野球へ
北海道で誕生した小学3、4年生向けの野球大会「SUNYON BASEBALL」が注目を集めている。1イニングに必ず1回はバッティングティースタンドを使用するなど独自のルールを設け、未経験者の取り込みに成功。3年目の今年は札幌から北海道全域に規模を広げ、将来は全国展開も視野に入れる。試合経験の少ない世代にスポットを当てたユニークな大会は、野球人口を増やす切り札になるかもしれない。
全道5ブロックのトップを切って、札幌・近郊ブロックが今月9日に開幕した。3、4年生だからと侮ってはいけない。ピンチの場面でマウンドに集まって真剣に話し合う様子は大人顔負け。「次、走ってくるぞ」とか「クイックで投げろ」といったレベルの高い声かけも飛び交う。主催するNPO法人ドリームキッズチャレンジ代表理事の前川英紀さんは、「よく“試合になるんですか?”と聞かれますが、熱意のある素晴らしいプレーをしてくれますよ」と目尻を下げる。
この大会がきっかけとなって本格的に野球を始めた選手は、着実に増えている。一昨年は未経験者32人中26人、昨年は52人中47人がその後、少年野球チームに入団した。今年は札幌・近郊ブロックの200人中67人が未経験者。さらに今後、ほかのブロックでも未経験者を取り込む可能性は高い。
「今年は何人が続けてくれるか、期待しています。野球教室では野球人口は増えないと思っています。子どもたちが一番楽しいのは試合ですから」と、前川さんはこのプロジェクトの核心に触れた。
野球の楽しさを1人でも多くの子どもに知ってもらい、続けてもらうことが目的だ。目指したのは、通常の野球競技をベースにしながら、初心者や未経験者でも楽しめる大会。「3、4年生のレベルも時代とともに上がっています。ティーボールでは物足りなくなり、自分で投げて、打ちたいという熱意を持っているので、うまくティーボールとミックスできないかと考えました」と振り返る。
用具は貸与、ユニホームはTシャツ支給…参加費だけで“仲間づくり”ができる
少年野球の現場を15年間見てきた現役の少年野球監督だけに、前川さんが発案した特別ルールは絶妙だ。
未経験者を想定して1イニングに最低1回はティースタンドを使用しなければならない(2回まで使用可能、打席の途中からでもOK)。3アウトもしくは打者9人が打ち終えた時点で攻守交代。守備は9人制で交代は自由。打者はベンチ入り選手全員が順番に打席に立つ。試合時間は2時間(最長7回まで)。投本間は14メートル、塁間は21メートルと、全日本軟式野球連盟が定める学童4年生以下の距離を採用している。
未経験者が参加するためのハードルを下げる工夫は、ほかにもある。グラブなどの用具を貸与し、ユニホームは参加者に支給される個人名入りのチームTシャツさえ着用すれば、下はジャージでもOK。帽子もツバのあるものなら何でも構わない。また、試合前の1時間のウオームアップは、チームの監督による野球教室を兼ねて行われる。自己負担は参加費3000円と交通費だけで、野球を学び、仲間づくりができる環境が整っている。
「今行われている一般的な少年野球の大会というのは基本的にチームに加盟しないと出られません。でも、加盟するにはハードルが高くて悩んでしまう保護者が増えている中、視野を広げてもらうためにも、選択肢を増やすためにも、こういう気軽に参加できる大会は必要なのかなと思います」と前川さんは話す。
すでに野球チームに所属している子どもたちにも好評だ。試合は金曜日にナイターで行われるため、自チームの活動と重ならない。自チームでは試合の出番が少なく試合に飢えている世代だけに、率先して声を出し、未経験者を引っ張っている。
一昨年札幌でスタートした大会は、野球人口減少に悩む他地域からの要望に応え、今年は全道に規模を拡大する。道央、道南、道東、道北で各100人、6チームずつ結成して代表を決め、今冬に5ブロック8チームで北海道チャンピオンを決める。「まずは全道が手を繋いで、いずれは全国大会開催までいけたらいいですね」と前川さんの夢はふくらむ。
(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)
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