試合前に“運動会” 母応援にキッチンカー…親子で野球好きにする「型破り発想」
北海道発の小学3、4年生向け大会「SUNYON BASEBALL」はコロナ禍を機にスタート
初心者でも試合形式で野球を楽しめる独自ルールで注目される、北海道発の小学3、4年生向け野球大会「SUNYON BASEBALL」は、コロナ禍がきっかけで誕生した。スタートした2022年当時の3年生は、入学式を経験できなかった世代。大会を主催するNPO法人ドリームキッズチャレンジ代表理事の前川英紀さんは、「入学式ができなかったのでかわいそうという思いと、野球の試合ができない3、4年生のために何か作ってあげたいという思いから始めました」と語る。
IT企業経営者で少年野球指導歴15年の前川さんは、アイディアマンで実行能力が高い。試合を見に来ることのできない保護者のため、初年度から全試合をYouTubeでライブ配信。昨年までは映像を流すだけだったが、今年はボール、ストライク、アウトの表示のほか、イニングや得点などの情報も表示するバージョンアップを予定している。
試合のある金曜日の夜には球場にキッチンカーを呼ぶことも決めた。「お腹が空くという声をよく聞いていたので、今年は毎回キッチンカーを登場させます。食事づくりで大変なお母さんたちの応援の意味も込めて」と笑う。
小学1年生から社会人まで野球と共に歩んできた前川さん自身、現在大学でプレーする野球選手の父親。保護者の気持ちもよくわかるだけに「子どもたちが野球を楽しみ、保護者の皆さんに喜んでもらえる団体を目指しています」と言う。たった一人で始めたが、この熱い思いに賛同する協力者は年々増えている。現在はボランティアスタッフ10人体制。中には現役の子どもたちのママさんやママさんユーチューバーもいる。
将来的な展開へ、被災地・石川県との交流を計画中
学校の垣根を越えたマッチング型のチーム編成も、前川さんの発案だ。「出会えるきっかけを作って、みんなで野球を楽しんでほしい」と狙いを説明する。4年生を終えた後も「この大会で繋がりを持った仲間とまた顔を合わせる機会を作っています」と追加イベントを用意している。5年生、6年生を対象に、1月から3月にかけて室内練習場を借りて「ANOTHER」と題した野球教室と交流試合をセットにしたイベントを開催。募集開始からわずか3分で定員の35人が埋まってしまうほどの人気を誇る。
子どもたちのためにという思いは、運動会をセットにしたユニークな開会式にも表れている。2022年の団体発足時に「ドリームプロジェクト」として子どもたちが叶えたい夢を募集。「コロナ禍でできなかった運動会をやりたい」という声を受け止め、昨年から実現させた。50メートル競走、綱引き、玉入れ、大玉転がしリレーの4種目。小学校の運動会が縮小される中、選手と保護者から高い評価を得ている。
前川さんの頭には、型にはまった発想はない。「古い気質には古き良きものがあるのでしょうが、時代と共に変わっていかないといけないものもあると思うんです」。試合では未経験者や初心者でも楽しめるように1イニングに必ず1回バッティングスタンドティーを使用するなど独自ルールを設けるなど、野球界の慣例を次々に打ち破る。
ユニホームTシャツも斬新だ。同じチームだからといって同一色ではない。同じなのはチームマークだけ。「多様性に対応するため」と色は7色から自分の好きなものを選び、個人名の入れ方も漢字やローマ字など自由に選ぶ形を取り入れた。
大会の参加費は1人3000円。ユニホームTシャツを作ると、いくらも残らないため、協賛企業探しも前川さんの大きな仕事だ。「今はこのNPO法人の基盤を固めたい」と会社の仕事よりも注力。札幌市が寄付を募って登録団体の活動に助成する「さぽーとほっと基金」に登録しており、活動に賛同する人が寄付をすると税負担が軽減される仕組みを利用した運営資金集めにも期待を寄せる。
将来的には全国大会の開催を考えている。その第一歩として、まずは石川県との交流を計画中だ。今年1月の能登半島地震で被災した子供たちのため寄付を募り、石川県学童野球連盟に野球要員等を寄贈した。その際に交流試合を提案。「向こうではティーボール大会を開催しているそうですが、こちらの特別ルールを伝えたら“それが1番面白そうだ。それに変えていこう”というお話をいただきました。来年度、北海道と石川県のチャンピオンの交流戦開催を目標に動きます」と活動の輪を広げていく。
(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)
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