可能性狭める“大人の決めつけ” 成長期はそれぞれ…社会人でも激変「失敗してもいい」
五輪3度出場の“レジェンド”杉浦正則氏が語る「考えて成長する」ことの大切さ
7月19日に開幕する第95回都市対抗野球大会(東京ドーム)に、ともに第一代表として出場するNTT東日本と日本生命が、6月末に千葉県船橋市で、小学生を対象とした野球教室を合同で開催した。大舞台を直前に控えた中で行われた名門チームによる異例のコラボ企画は、今年の春先に立案されて動き出したものだ。
企画を立ち上げ、開催に向けた準備に尽力した日本生命の杉浦正則氏は言う。
「日本生命は全国に支社があり、オフシーズンともなれば各地で野球教室を開いています。そういう中で、シーズン中にも何かできないかと考えたことが、今回の合同企画のきっかけでした」
杉浦氏は、言わずと知れた「社会人野球のレジェンド」だ。投手として活躍した日本生命では、都市対抗野球大会の最優秀選手賞にあたる橋戸賞を2度獲得。1992年のバルセロナ、1996年のアトランタ、そして2000年のシドニーと、五輪には3度も出場。現役引退後は日本生命の監督を歴任して、現在は社会人野球日本代表のアドバイザーも担いながら、高校野球の解説も行う。
地域貢献や野球の普及について常に考え、「多くの人に好きな野球を続けてほしい」という思いを持ち続けている杉浦氏が、企画の実現に向けて相談したのが、シドニー大会でともに日本代表に選出されたNTT東日本の前監督である飯塚智広氏だった。
同志が中心となって開催された合同野球教室では、社会人野球のトップレベルを誇る選手たちが技術指導を行った。午後からはNTT東日本と日本生命のオープン戦だ。野球教室に参加した子どもたちは、そのハイレベルなゲームを実際にベンチに入って見つめた。
様々なポジションを経験させて「自らが『やる』野球を」
そんな中、引率してきた保護者や少年野球チームの指導者が集まり、杉浦氏と飯塚氏の言葉に耳を傾ける場面があった。杉浦氏は、子どもたちの集中力を引き出すこと、そして想像力を持って動くことの大切さなどを伝えた。
「やらせる野球ではなく、自らが『やる』野球を」
そんな言葉も交えながら、集まった大人たちにやさしく語りかけた。杉浦氏は「失敗を恐れずに、何事も自分で考えて進んでやることを身に付けてほしい」と語り、改めてこうも言うのだ。
「子どもたちの力が伸びる、言わば『成長する』タイミングは人それぞれです。そういう意味でも、たとえばポジションについても、はじめから大人が決めつけてしまうのではなく、いろんなポジションを守らせることも大切だと思います。高校野球のあたりから、ある程度の適性が見えて整っていくものでしょうが、社会人野球でも『失敗してもいいから外野に挑戦してみよう』と言うと、プレーがガラッと変わる選手がいるものです」
つまりは、固定観念にとらわれずに可能性を見出してあげることも、指導する側には大事なことだという。
自らの可能性を信じて、好きな野球を楽しむ――。
「たとえば『このボールをどこまで飛ばせるのかなあ』と考えて、実際に打ってみてボールが飛ぶと大きな喜びになりますよね。投手なら、自分が思った通りに投げて抑えたときに喜びを感じるものですよね。子どもたちには、そういった楽しさも味わってもらいながら、好きな野球を続けていってほしいと思っています」
杉浦氏はそう言って、野球界の未来を見つめている。
(佐々木亨 / Toru Sasaki)
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