打撃で難しい「体重移動」…明快な伝え方は? 危機感から編み出した“視覚的説明”
「予約が取れない野球塾」運営する下広志氏…指導3年目に直面した指導法の壁
引き出しの数が、指導力の差となる。キャンセル待ちの状態が続いている東京都内の野球塾「Be Baseball Academy」を運営する下広志さんは、指導者になって3年ほどが経った頃、選手が思ったように成長しない壁に直面した。主に指導している小・中学生は体格も性格も異なるため、教え方や伝え方のバリエーションを増やし、個々に合った指導を追求している。
下さんは指導者になって15年ほどが経つ。今では「予約が取れない野球塾」と言われるほど口コミを中心に人気が高まっているが、「このままではまずい」と危機感を抱いた時期もあったという。当時を振り返る。
「最初は指導者も選手もモチベーション高くスタートします。ただ、選手が思ったように上達しないと自分に焦りが出てきて、選手からは積極性が消えていきます。指導を始めて3年くらい経ったタイミングで、今の教え方だけでは『選手のためにならない』と感じるようになりました」
大人と比べて知識や経験が少ない小・中学生は、説明を理解するのが難しい。そこで、下さんは視覚的にわかりやすく教える引き出しを増やすことを心がけた。
例えば、打撃で体重移動を教える際、2本のペットボトルを使う。1本は水を入れて重くし、もう1本は空っぽで軽い。この2本のペットボトルをゴムチューブでつないで引っ張り、同時に放すと、重いペットボトルは動かず、軽い方が重い方に引き寄せられる。
体重移動の仕組みも同じだ。軸足(後ろ足)に乗せた体重を、スイング時に踏み込む足(前足)へと移すが、この際の後ろ足が「軽いペットボトル」、体重が乗った状態の前足が「重いペットボトル」を意味する。しっかりと踏み込む足に重みを移すことによって、前方向に力が引き寄せられ、打球にその力を伝えることができる。
「できていない」「してはいけない」はNG…声掛けはポジティブに
他にも、スイング軌道をイメージするためにフラフープを使う時もある。また、送球でトップの位置をつくる時に「耳の高さまで手を上げる」と伝えてもできない選手には、選手の耳の高さに下さんが手を置き、タッチしてから送球するように伝える。指導内容は同じでも、選手によって理解しやすさは異なる。下さんは常に、教え方や伝え方の引き出しを増やす意識を持って指導している。
もう1つ、選手と接する上で大切にしているのは声の掛け方にある。下さんは否定的な言葉を使わず、選手ができているところを探す。「できていない」「してはいけない」という表現は避け、今よりも上手くなるためのアドバイスを送る。
「選手は否定されると消極的になってしまいます。私のスクールには、所属しているチームで怒られてどんよりした気分で来る選手もいます。選手たちにはスクールで“色”を取り戻してほしいという気持ちで教えています」
指導のバリエーションが多いほど、子どもたちは野球の楽しさを知り、技術が上達する可能性も高まる。それだけ、教え方や声の掛け方は重要な要素となる。
(間淳 / Jun Aida)
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