子どもの「肘の痛み」を発見する方法は? 手術回避へ、逃したくない“時機”と“表情”
いち早く選手の「野球肘」に気付き、対処するために保護者ができること
「怪我で苦しむ子を減らしたい」と日々奮闘するドクターがいる。さいたま市立病院スポーツ医学総合センター医長で、NPO法人埼玉スポーツメディカルサポート副理事長を務める山田唯一先生は、野球肘検診を積極的に行うなど、障害予防の大切さを訴える活動を続けている。7月にさいたま市で開催された「親子で楽しむスポーツフェア」会場にて、少年野球の保護者が気をつけたいポイントについて話を聞いた。
山田先生は、少年野球をしている小学生の20%程度が、肘の内側に障害を起こしている可能性(上腕骨内側上顆〈じょうか〉障害)があるのではないかという。「特に野球を始めて少し経ち、強いボールが投げられるようになってきたり、速いボールを放るようになってきたりするタイミングで、痛みを覚える子が多い印象があります」と語る。
しかし、腕を動かせなくなるような痛みでもないため、親子ともに「大したことはない」と見過ごしてしまいがちだ。山田先生は「これからも野球を続けるために、スポーツを楽しむために、こうした障がいを早く発見し手当をすることが大事です」と続けた。では、いったいどのように障害の有無を判断したらよいのだろうか?
子どもの性格によっては、痛みを口に出さないこともある。また症状の度合いによっては、普段ほとんど痛みを感じないために、本人も気づいていないこともある。
山田先生は、お風呂に入る前や、親子でのんびりしている時に、肘の内側から外側に向けて少しストレスをかけるように押して、痛みがないかを確かめてみる方法を推奨している。必ずしも子どもが「痛い!」と言うわけではないが、たとえば、顔をしかめたり、何かを我慢するような表情が現れたりしたら、「ちょっと痛いのかな」とおだやかに聞いてあげよう。
いきなり「痛い? どれくらい痛い? 大丈夫?」と畳み掛けると、子どもも驚いてしまうし、野球ができなくなるかもと考え「痛くない、なんでもない」と答えてしまうかもしれない。山田先生は「普段から親子のコミュニケーションとして、触れ合いながら自然な感じで、肘の状態や子どもの体の状況を見てあげてほしいです」と語る。
「違和感がある時」に行くべき病院は? とにかく診察をためらわない
肘の痛みといっても、たまたまボールが当たって痛いということもある。もしも子どもが痛みを感じているようなら、練習量を減らす、投げるのを控える、などで様子を見てみる。しかし、痛みが続くようなら早めに受診したい。山田先生は「まず近くの整形外科で診察を受けることが大事」という。できればホームページなどをチェックし、
・スポーツ整形外科である
・超音波診断を積極的に行っている
・肘や肩の専門医がいる
といった条件で探すのがベストだ。上記に当てはまるクリニックや専門医ならば、症状の見極めや、適切な診断・治療を行ってもらえる可能性がより高くなる。痛みを感じるのが肘の内側か、外側かによって症状も病名も異なるが、素人にわかるわけもなく、とにかく診察をためらわないことが大事だ。
野球肘で手術とならないよう「予防・気付き・診察」が大切
日本野球協議会医科学部会が7月に公表した「障がい予防研究 第1回調査報告」によると、過去2年間、いわゆる野球肘といわれる上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(小頭OCD)で手術をした選手の平均年齢は13.9歳で、中1から中2がピークだったという。しかし、小学4年生から発症している例もあり、高学年での手術例も少なくない。
また調査報告では、障害が発覚した選手の11%が野球肘検診で見つかっており、その際の平均年齢も低かったという。より軽症のケースを早期に発見できる可能性があることから、「痛みがなくても野球肘検診を受けることは意義がある」としている。
山田先生も同様に、「痛みがなくても検診を受けてほしい」と勧める。そもそも野球肘は「投げすぎ」や「使いすぎ」が主な原因であり、我慢しすぎて悪化させるケースが見受けられる。逆に言えば、日頃から怪我予防に留意し、子どもの状態や様子を見て、早めに検診や診察を受けることで、悪化を防ぎ、手術に至らずに済む。
スポーツ障害について学び、日頃のスキンシップやコミュニケーションの中で子どもの体の状態や変化に早めに気づくようにしたい。それは野球肘の予防だけでなく、他のあらゆる障害を防ぐために、子どもがたくさんの仲間と元気いっぱいにスポーツを楽しむために、日常的に親が意識したいことである。
山田先生は、イベント会場に「スポーツ障害相談コーナー」を設けて無料診断診察も行っていた。「1人でも怪我で苦しむ子を減らしたい」、そして「スポーツに関わることで人生を豊かにしてほしい」というのが山田先生の願いだ。
参考:日本野球協議会医科学部会障がい予防研究第1回調査報告/日本野球協議会オペレーション委員会医科学部会
(大橋礼 / Rei Ohashi)
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