全国出場、小学校増加でも“選手激減”のワケ チーム消滅の危機脱した「根気の再建策」

新坂スピリッツ・米山慎一監督【写真提供:フィールドフォース】
新坂スピリッツ・米山慎一監督【写真提供:フィールドフォース】

父として中・高の現実に直面…「一律で根を詰める」学童野球に疑問符

 活動できるグラウンドの数と広さに、近隣チームの数と分布、そして子どもの絶対数。小学生の野球を取り巻く環境は、首都圏と地方とでは、あまりにも違うことが多い。地方では同じ行政区でも、環境のバラつきが激しいこともままある。新潟県の県庁所在地。新潟市の8区でもそれが顕著だ。東端の北区は子どもが減り続けて、小学校が統廃合されてきた。かつて10以上あったチームも、現在は5チームしかない。

 一方、西端の西区は市内で2番目に人口が多く、小学校も増え続けている。2013年に「小学生の甲子園」こと全日本学童大会マクドナルド・トーナメントに出場した「新通・坂井東野球団」は、この西区にあった。現在は「新坂スピリッツ」として活動するが、地域に小学校が増えたことでの改称。昨今よくある、チーム同士の統合や吸収合併によるものではないという。

「小学生ですから、自分で通える範囲内で野球ができる、というのが一番大事だと思っています。ウチも3、4年前は人数不足で試合もできない時期がありましたけど、大会に他チームと合同で出るとか、合併という選択肢はありませんでした」

 こう語る米山慎一監督は、いわば出戻り。2021年にチームに戻ってきて、翌年に指揮官に復帰した。監督第一期の時代にチームを初の全国大会に導き、2015年限りで退団してからは、次男の中学・高校での野球をサポートしてきた。その過程で、学童野球に対する考えが激変したという。

「おかげさまで、次男は甲子園に出させてもらいましたけど、一方で『彼は何のために頑張っているの!?』という部員が、あまりにも多くて……」

 実力でメンバーが絞られるのは、野球競技に限ったことではない。が、人の子の親になって、中学・高校野球の現実を目の当たりにするたび、やるせない感情がわいてきた。

「実際、中・高と上に行くほど、ふるい落とされる子が圧倒的に増えてくる。それなら何も、小学生のうちから全員一律で根を詰めてやり込まなくてもいいのでは、という考えが自然に強くなりました」

指導者は要所で直接の助言や指導を行う【写真提供:フィールドフォース】
指導者は要所で直接の助言や指導を行う【写真提供:フィールドフォース】

量を詰め込む練習で危機的状況に…「育む」をキーワードに立て直しへ

 かつては自らアンテナを張り、県内外の名将や強豪チームと積極的に交流した。すると市内ベスト8が最高だったチームが、めきめきと頭角を現して、ついには全国出場。当時は「勝利至上」の自覚はなかったものの、子ども以前に大人が突っ走っていたのは否めないと語る。

「土日祝日のすべて、朝から夕方までやっていました。大会とか遠征試合から帰ってきての練習もザラ。育成は結局、時間を拘束して量をやって詰め込んだら、やれる。きちんとした野球もできるんです」

 しかし、そういう有無を言わせぬ大人主導が、地域の親子から敬遠されていく要因に。コロナ禍もあって選手は激減し、米山監督の復帰時は片手で足りるほどに。

「危機的状況、以上でしたね。そこで指導陣で話し合って『育む』をキーワードに、チームを立て直そうと。うまくなる一番のポイントは、大人が教え込むより、本人のやる気が出ることだと私は思います」

 指導者は後方から子どもを見守り、たとえ上達が遅れても根気よく付き合っていく。そのスタンスは、選手が30人超まで回復した今も変わらない。どういう練習をするか、どこと練習試合をするか、スタメンはどうするか……ほとんどの下駄が選手たちに預けられている。

「昔の子どもたちが公園でやっていた野球と、同じような世界観を大人が提供しているというのか。壮大な遊び野球、という感じですかね」

 活動は原則、土曜と日曜の午前のみ。4年前に開校した新通小学校の校庭が主な拠点だ。

「子どもたちはそもそも、みんながみんな、ずっと野球をしたいわけではない。家族と映画を見るとか、温泉に行くとか、違う趣味とか習い事もしていい。そういう時間も与えてあげたいんです。もちろん、もっと野球がやりたいという親子には『自分のやりたいようにやったほうがいい』と話しています」

現在は31人が所属。今年のSDGs新潟地区学童大会は3位【写真提供:フィールドフォース】
現在は31人が所属。今年のSDGs新潟地区学童大会は3位【写真提供:フィールドフォース】

「水曜あたりからワクワクするし、週末が雨の予報だと悲しい」

 6年生の三島大空主将は、週末の活動が昼で終わると「また2時にここ(校庭)ね!」と何人かと約束し、午後も野球に興じることが多いという。

「野球もチームも、めっちゃ好きです。雰囲気が良いし、コーチ陣が優しくて面白い。土日にここに来るのが楽しみで、水曜あたりからワクワクするし、雨の予報だと悲しい」(三島主将)

 卒団した長男に続いて次男が在籍中という新田未知子さんは、米山監督の第一期と第二期との違いを敏に感じている。そして好感を抱いているという。

「その日その日の達成感が息子から感じられます。うまくできてもできなくても、叱られても、次につながるフォローがあってチャンスも与えてくれるので、次も頑張ろうという気持ちになるようです。保護者にも温度差があって考え方もいろいろですけど、指導陣がバランスを取ってくれていると思います」(新田さん)

 楽しむことと勝つことの狭間で、揺れ動く気持ちは選手たちにもあるようだ。三島主将は「楽しむことも大事、勝つことも大事。勝ちたい気持ちがプレーに出る子と出ない子がいるけど、そこで全員で一個になれば強くなると思います」と語る。

 人が増えるとともに、実績もまた上がり始めている。昨年はスポーツ少年団の県大会でベスト4まで進出。新潟地区で秋口にある、6年生対象のローカル大会は昨年まで2連覇、今年は3位に入った。

「半日活動で冬は積雪もあるので。育成に時間がかかり、チームの仕上がりも遅いんです。でも、最終的には、それなりになってきてますね」(米山監督)

 来年度は「小学生の甲子園」が新潟開催。通常は県王者のみの出場枠が複数に増える見込みだが、米山監督は出場2回目の意欲を問われても「どうなんでしょうね」と、まるで他人事のよう。

 6月の全国予選に間に合うかどうか。そもそも、そこを目指すかどうかを決めるのも自分(監督)ではない、ということか。いずれにしても、米山監督の下で子どもが減ることは二度とないだろう。

「学区域に小学校が3校ありますからね。部員30人では、割合としてはまだまだ低すぎると思っています」

〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。JSPO公認コーチ3。

(大久保克哉 / Katsuya Okubo)

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