野球で成果、内申ほぼ満点でも「普通に落ちる」 緊張に汗した難関高校の“面接対策”
慶応高で春夏2度甲子園…鈴木裕司氏の受験対策「中学でのアウトプットが生きた」
難関高校の野球部に入るためには、当然ながら、野球だけをやっていればいいというわけではない。学業での内申点や、面接、小論文対策など、長期的な準備が必要だ。越谷リトルシニア(埼玉)から2006年に慶応高校(神奈川)に進んだ鈴木裕司さんは、2003年から開始された推薦入学試験を利用して入学した。慶応高校野球部に入るまでの受験対策や、合格に至った経緯について話を聞いた。
「最初は制度のところから話すことが多いです。慶応高は野球推薦ではなく、いわゆる自己推薦です。その条件は大きく分けると2つあって、1つは学業に関しては内申点が5段階評価の9教科合計45点満点中38点以上必要で、もう1つは、運動・文化芸能活動で相応の成果を挙げたものという、この2つの条件を満たすと応募できます」
「相応の成果」については明文化されていないが、野球であれば全国規模の大会に正選手として出場、さらには日本代表の経験があるなど、個人の実績があればなお良いという。鈴木さんは内申点で満点近く、野球の実績に関しても、中3時に全国大会に春夏連続出場、準日本代表に相当する関東選抜にも選出されていたため、受験資格をクリアしていた。
「僕は野球でしたけど、相撲日本一や百人一首日本一、ディベート大会で世界上位などの、多様な人材が入学していた記憶があります」
当初は野球強豪校に進学したい気持ちもあったが、慶応高の関係者や両親の勧めもあり、受験を決意した。ただし、絶対に受かるという確約はない。試験科目は第1次選考が書類審査、第2次選考が面接と作文、集団討論が行われる。しっかりと対策をしていても「内定の確約はありませんので、普通に落ちる可能性があります」と釘を刺されていたという。
「通っていた中学校が授業に対しての取り組みがしっかりしていて、学級委員もやっていたので、先生とコミュニケーションをとったり、インプットしたものをアウトプットする機会も多かったりしたので、それが生きたかもしれないですね」
中3受験時の“準備と努力”が高校入学以降に磨かれた
それでも、試験本番の集団討論は緊張し、「汗をかいたのを覚えています」と振り返る。試験官から1枚の紙が渡され、テーマを一読した後に受験生4、5人で討論が始まる。15歳にとって、互いの意見を交換しあう機会はそう多くはないが、学校生活からしっかりと自分の意見を伝えていた経験が大きかった。
「しゃべることは好きだったので、発言量という意味では自信を持って、面接後の帰路に就いた記憶があります。でも、野球で元々知り合いだった選手も受験していて、僕がしゃべったら、『いや、僕は彼と違う意見を持っているのですが……』と返してきて、焦ったことは覚えています(笑)」
無事に合格を勝ち取った鈴木さんは、2008年に4番打者として春夏連続で甲子園に出場。慶大でも2年秋からベンチ入りし、3年春のリーグ戦優勝に貢献する活躍を見せた。現在は大手総合酒類メーカーに勤務するかたわら、今年2月に弟の健介さんとグラブブランド「YK BROTHERS」を設立。慶応で過ごした7年間が、その後の社会人生活の基盤となっていることは間違いない。
「慶応は自分で考えたり、主体性を持ってやることを重視している学校です。中3の受験の時から準備、努力をして、しっかりと考えるということが、高校に入ってから、さらに磨かれた気がします」
野球、勉強と真摯に向き合った学生時代があったからこそ今がある。鈴木さんはこれからの人生も全力で駆け抜ける。
(内田勝治 / Katsuharu Uchida)
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