「怒声、罵声は何も生まない」 野球を再び“好き”に…大阪桐蔭OBが涙した万感卒団式
中学硬式野球「桐生南ポニー」の謝敷正吾監督が初めて中学3年7人を送り出す
大阪桐蔭高時代に甲子園で中田翔内野手(現中日)とアベックホームランを放ち、明大、BCリーグ・石川でも活躍した謝敷正吾氏が、指導者として初めて“卒業生”を送り出した。謝敷氏が監督を務める群馬県の中学硬式野球チーム「桐生南ポニー」の卒団イベントが、12月22日に行われた。
「今年卒団する中学3年生7人は、1度は野球を嫌いになった中で、桐生南ポニーという新しいチームに入ってきてくれた。卒団にあたって『野球が好きで好きでしかたがない』という声もありました。野球をもう1度好きになってくれたとすれば、僕としては責任を果たせたのかなと思います」と謝敷氏はうなずく。
現役時代は右投げ左打ちのスラッガーとして鳴らし、大阪桐蔭高3年の夏には、甲子園大会1回戦の神奈川・横浜高戦に「3番・二塁」で出場し、8回にセンターへ3ランを放った。続く中田も同じくセンターへ2者連続本塁打となるソロで続いたシーンは、高校野球ファンの脳裏に刻まれた。
卒業後に明大、BCリーグ・石川でもプレーしたが、目標だったNPB入りはかなわず。24歳で区切りをつけて、オープンハウスグループに就職し、営業職、社長付運転手を務めてきた。オープンハウスが廃校となった群馬県立桐生南高校の跡地を取得したことがきっかけとなり、そのグラウンドを本拠地に昨年4月、荒木重雄氏(元ロッテ執行役員事業本部長)を球団代表として「桐生南ポニー」を設立。謝敷氏がオープンハウス桐生の施設長に異動するかたわら、監督に就任したのだった。
現在、桐生南ポニーの内訳は3年生7人、2年生17人、1年生30人の総勢54人。今年はチーム創設2年目にして、ポニーリーグの北日本選手権大会関東連盟予選でベスト16入りし、7月の全日本選手権大会出場を果たしている(1回戦敗退)。
卒団イベントでは「2、3年生の保護者対2、3年生」のソフトボールマッチと、「指導者対2、3年生」の2試合が行われ、謝敷氏も第2試合で指導者チームの「3番・三塁」で出場。適時打と犠飛を放って見せたが、9-6とリードした最終回(3回)にマウンドへ上がり、エラー絡みで4点を奪われ逆転サヨナラ負けを喫した。「子どもたちの成長を感じました」と苦笑した。
「日本一愉しく取り組み、大会でも日本一になりたい」
卒団する3年生7人はいずれも、所属していた別のチームをやめて入団してきた選手たちだという。前所属チームをやめた理由はぞれぞれ違うが、「怒声、罵声を浴び、過度のプレッシャーにさらされてきた子が多いです」と謝敷氏は説明する。
「怒声、罵声が何かを生み出す可能性は、ないと思っています。それは指導者の一過性の自己満足でしかない。僕も叱ることはありますが、感情的な言葉とは全然違うと思います」という姿勢はそのまま、チーム方針に結びついている。
「怒声、罵声の代わりに、『なぜ、そういう取り組みになったのか』を一緒に検証しています。たとえて言えば、勉強しない子に『勉強しなさい』と言ってもダメで、どうやったら勉強に取り組んでもらええるのか、というようなことを考えながら、子どもたちがしっかり理解できるようにやってきたつもりです」
その3年生7人は2025年、将来医師になることを目指して勉強に重きを置く1人以外、高校でも野球を続ける予定だという。有名強豪校に進む者もいて、いったん閉じかけた野球人生の扉が再び開いた。卒団イベントで謝敷氏は「3年生のキャプテンがあいさつで『荒木(球団代表)さん、このチームをつくってくださって、ありがとうございました』と言った瞬間、僕は思わず号泣してしまいました」と明かした。
桐生南ポニーに残る現在の2年生には、中学生にして183センチ、107キロの体格を誇る長距離砲をはじめ、有望選手がたくさんいる。謝敷氏は「2025年は、最初の3年計画の最終年にあたります。僕たちは何においても、日本一を目指す野球団でありたい。日本一愉(たの)しく取り組み、大会でも日本一になりたいです」とボルテージを上げる。そして「プロを目指して、志高くやってほしいです」と、自身がかなえられなかった“夢の続き”を見てほしいと願う。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
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