低学年の野球指導に「スキルはいらない」 怒声・罵声と無縁…成長実感させる“言葉力”
学童野球の新リーグ組織が提唱する、大人たちに求められる「言葉かけ」
旧態依然とした姿は影を潜め、野球界における大人たちの指導法にも新たな潮流が見られてきた。子どもたちに対する“言葉かけ”も然り。今年3月からスタートする学童野球の新リーグ戦組織「INFINITY BASEBALL LEAGUE U-12(インフィニティ・ベースボール・リーグU-12)」(以下、IBL)では、その重要性を前面に打ち出す。
子どもたちを“ど真ん中”に――。その大儀を持ち、シーズンを通して小学生向けのリーグ戦を行う組織「プレイヤーズ・センタード・ゲームズ」(PCG)の活動を引き継ぎ、3月から新たな船出を切るのがIBLだ。運営の中心を担う練馬アークス・ジュニア・ベースボールの中桐悟氏は「ネガティブな声かけは一切ありません」と言う。
子どもたち自身に「考えて」動いてもらいたい。そのために、指導者は「問いかけ」を続ける。
「子どもたちを萎縮させないように。たとえば、打席で高めのボール球を振って空振りしても『なんでそんなボールを振るんだ』ということは絶対に言わない。そう言われると、次にストライクでもバットを振れなくなってしまうものですから」
発せられる言葉は「ナイス、スイング!」。同時に「もう少し低いボールが来たときに打てるといいかな」。そんな言葉を投げかけるという。中桐氏は「言葉をかけているだけでいい。究極なところ、小さい子どもには、野球を教えるのに『野球のスキル』はいらないと思っています」と言い、さらに続ける。
「うまくいかなかったときに『どうしたらうまくいくと思う?』と問いかける。逆の場合は『どうしてうまくいったと思う?」と尋ねる。ひたすら聞くことで、子どもたちは成長できると思っています」
野球の「入り口」が広い、IBLが創り出す新たな環境
時には、子どもたちが大人の階段を駆け上がる過程で、指導者が厳しさを持って接することも必要かもしれない。ただ、あえて「叱る」ことを除外して、「問いかけ」に徹することで、子どもたちの高まる意識を実感してきた背景がある。中桐氏は言う。
「野球を続けるという点では、ウチのチームの子どもたちは100%の割合で中学生になっても野球を続けてくれています。そこがこのリーグの成果というか、ウチのチームが自慢できる点だと思っています」
週末の限られた時間での活動。野球ができる時間が「足りない」と感じる子どもたちは、自然と“スイッチ”が入る。野球への想いが募る。すると、大人たちが何も言わずとも、子どもたちは平日に自主練習を積極的に行う。
「子どもたちは『もっと野球がやりたい』と思って帰宅して、『もっとやって』翌週の練習や試合に挑む。できなかったことが翌週にはできていたり、大人たちもビックリするような成長をしていることもあるんですよ」
PCGから継続してIBLで活動するチームの中には「中学校で野球を始めたい」と言い、6年生から入団する小学生もいるのだという。子どもをチームに入れることを躊躇する保護者にとっても、野球の「入り口」が広く、そのハードルが低い環境と言える。中桐氏と同様に、IBLの中心を担うさいたまインディペンデンツの島本隆史氏は言う。
「昔よりも、野球チームに対して子どもたち、その親御さんたちも敏感になっている。だからこそ、指導者の言葉かけひとつでチームの雰囲気や空気が変わる。子どもたちの表情や野球への想いも変わるものだと思います」
野球人口増加に向けて、IBLが創り出す環境もまた、これからの新たな流れになっていくのかもしれない。
(佐々木亨 / Toru Sasaki)
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