多感な中学生年代に「控え選手」は必要か 野球継続に必須の“体験”「人材が育たない」

中学指導者講習会が行われた「ふくしまスポーツ未来プロジェクト」【写真:川浪康太郎】
中学指導者講習会が行われた「ふくしまスポーツ未来プロジェクト」【写真:川浪康太郎】

巨人野球振興部長・倉俣徹氏が提唱…中学野球での「成功・失敗体験」の重要性

 多感な中学生年代のモチベーションを高めるために必要なのは、「体験」の場を与えることだ。昨年12月に福島市で開催された中学野球指導者を対象とした指導者講習会に、読売巨人軍野球振興部長で、中学硬式「高崎中央ポニー」の監督を務める倉俣徹氏が登壇。参加者約30人に向け「中学生年代に補欠は不要。全員を主役にして成功・失敗体験を積ませることが大切」と訴えた。

 倉俣氏は講習会で、「調整力」「体力」「技術」「戦術」「メンタル」という選手育成の“5本柱”を紹介。一流選手を育てるための具体的な指導法が次々と明かされる中、「メンタル」の分野では「中学生はジャンケンでも負けるより勝つ方がうれしい。『勝つとおいしいご飯が食べられる』といった“外発的動機”でやる気を高めて、徐々に“内発的動機”に結びつけるのが大事。内発的な動機付けができないと、努力を継続できる人材には育たない」と、モチベーションの高め方についてアドバイスを送った。

“外発的動機付け”とは、報酬や評価などの「外部から誘発される意欲」、逆に“内発的動機付け”とは、達成感や共感、興味・関心などの「心の内側から誘発される意欲」のことだ。“外発的動機”は一時的な効果はあるものの持続性に欠けるといわれ、“内発的動機”によって主体的・継続的に行動できるように選手を導いてくことが重要になる。そのためにも倉俣氏は、「人生の志を立てる(中学生の)時に、控え選手である必要はない。勝っても負けても主役だと言ってあげるべき」と強調する。

 実際に、自身が監督を務める高崎中央ポニーでは、1学年に20人在籍の場合、練習試合を1日3試合行って第1試合は10人、第2試合は10人、第3試合は半分ずつで臨み、均等に出場機会を与えるようにしている。また難易度が高すぎても低すぎてもモチベーションが低下する「逆U字曲線」の法則に則り、勝率3割~7割を想定して対戦相手を組む。実戦の中で培われる成功・失敗体験が、高校、大学への進学やプロ入りを目指す原動力となるという。

読売巨人軍野球振興部長の倉俣徹氏【写真:川浪康太郎】
読売巨人軍野球振興部長の倉俣徹氏【写真:川浪康太郎】

指導者実感「野球もSDGs」…出場機会が“継続”のきっかけに

 講習会の参加者からも賛同する声が聞かれた。福島県中体連軟式野球競技相双地区専門委員長の小泉亮さん(南相馬市立鹿島中教諭)は「倉俣さんの話を聞いて『体験』の大切さを再認識しました」と話す。

 小泉さんが指導するチームは2校の合同チームで部員は9人のため、必然的に全員が試合に出場する。「昔であれば出場機会のなかった野球初心者の子も試合に出る。そういう子がヒットを打ったりして成功体験を積むと、『楽しい』と感じて素振りを毎日100回、200回とするようになるんです」。実戦経験を通じた選手のモチベーション向上を肌で感じている。

「野球もSDGsだと思っている。子どもたちが野球につけてくれた火を消さずに、中学だけでなく高校でも続けてほしい」と小泉さん。野球界では競技人口減少が叫ばれて久しいが、ただ増やすのではなく、「続ける選手」を増やす方法を考えなければならない。

(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)

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