指導者の“何回言わせるんだ”は「学び足りない証拠」 暴言NG時代こその“伝わる秘訣”
少年野球で心を動かす指導とは…人気野球講演家が名物練習で示す“熱量”
昭和の時代に横行していた暴言・暴力、ハラスメントは御法度の時代だからこそ、指導者に求められるものがある。少年野球に関わる多くの大人が悩む、子どもたちへの“伝え方”。学童やリトルリーグの指導に20年間携わり、現在は野球講演家として全国の少年野球チームを飛び回る年中夢球(ねんじゅう・むきゅう)さんは、「相手に『言いました』は1人の言葉。『伝わる』で初めて2人の言葉になる」と語る。その意味合いは、自身の体を張って実施する名物練習・パーフェクトノックに隠されている。
指導者・保護者や選手に“育成の心”を伝える講演家として、活動を始めて7年。昨年、自身の活動名を冠した学童野球大会「年中夢球杯」(一般社団法人オールジャパンベースボールリーグ主催)を初開催し、9月下旬に埼玉で全国大会を実施した。そこで、子どもたちの交流の場として行ったのがパーフェクトノックだ。
これは、敵味方関係なく一緒になって内野の4ポジションに分かれ、年中夢球さんが三塁・遊撃・二塁・一塁と順番にノック。1人1人が捕球・本塁返球をしていき、4グループ一体となってノーエラーの“完璧なノック”を完成させる、というもの。
「元々は、私が指導者時代にやっていたものですが、講演先のチームで『練習も見てください』と言われた時、厳しさの先にある野球の“本当の楽しさ”、達成感や一体感を伝えられないかと始めました」。インスタグラムで動画を上げたところ、「ぜひうちでも」と各地から要望が増えていったという。
ノックには指導者ら大人も参加。見守る保護者も含めて声掛けは絶やさず、エラーをした選手を責めないのは大前提だ。まずは知らない選手同士が集まり、自己紹介や「好きなお母さんの手料理」を言い合って打ち解け合う。「1死満塁想定だから、『慎重に、大事に』ってやっていたら間に合わないよ。軽いプレーや恥じらいはいらない」。豹柄ウエアのノッカーがゲキを飛ばすと、選手たちは「オーッ!」と声を張り上げてグラウンドに散った。
高校指導者の嘆き「強い子がいない」…土壇場でも力発揮できる選手に
声を張り上げ1球1球、打球に食らいついていく小学生たち。1グループ全員が成功しても、他グループの誰かがミスをすればやり直し。それは、大人も同様だ。「野球経験のない“パパコーチ”がやると必死さが伝わる。不恰好でも頑張っている姿は息子の心にも一生残るでしょうし、監督・コーチもエラーをするんだから失敗を恐れずにやろうと、選手たちへのメッセージにもなる」と年中夢球さんは説明する。
単なる根性練習ではなく、実戦にも生かされる。近年、高校野球の指導者から多く聞くのが「うまい子はいっぱいいるけれど、強い子はなかなかいない」という言葉だ。1死満塁想定には、大事な場面で起用され、力を発揮できる“強い選手”になってほしいという願いも込められている。
ノックの完成まで約1時間。その間、子どもたちに発破をかけながら、年中夢球さんはひたすらバットを振り続ける。次第にグラウンド内のボルテージが上がり、一体感が高まってくるのを感じる。最後、全員がノーミスで終えると、子どもたちは輪になって大歓声。地面に倒れ込んだノッカーも、疲労困憊の中にも充実した表情だ。
「野球は個人の動きが多いけれども、結局はチームスポーツ。みんなで1つのものを作り上げる“成功体験”は大きいんです」。最後までやり抜く力、仲間を大切にする心、全てが詰め込まれた時間だった。
「指導者は、普段から様々なところにアンテナを張っておかないと」
暴力頼りは論外だが、選手育成において、時に厳しい言葉で叱咤する必要性もあるはず。そこで子どもが萎縮してしまわないか、暴言に捉えられないか、言葉掛け1つにも悩む時代だ。しかし、ノック中の子どもたちは厳しい言葉にも気負けせず、時間が経つごとに表情も声も生き生きとしていった。“伝わる指導”の秘訣とは、何なのか。
「結局は“熱量”だと思います」と年中夢球さん。「ノックを機械のように打っていても、子どもたちは盛り上がりません。“この人は本気なんだ”と思われる姿勢を“行動”で示さないと。1日中キャンプ椅子に座って怒鳴っているようでは難しいですよね」と続けた。
情熱を持って行動し、情熱を持って言葉を発すれば、受け止めてくれる。そのためには知識量や“引き出し”も必要だ。「指導者は、普段から野球だけでなく様々なところにアンテナを張っておかないといけない。『何回同じことを言わせるんだ』と言う大人は、学びが足りない証拠。『言いました』は1人の言葉。『伝わる』で初めて2人の言葉になるんです」。
熱量を発することは決して簡単ではないし、40歳、50歳と年を重ねればなおさらだ。連日ノックを頼まれ「手の指も足もツって夜中に目が覚めることもあります」と苦笑する。それでも、「残りの人生は子どもたちのために生きようと思っています。彼らが将来、選手や指導者として野球界を引っ張って、いつか『豹柄を着た熱い人がいたな』と思い出してくれれば」と願う。
技術を伝えられる指導者はたくさんいる。自分にしかできない教えを、自分らしいやり方で伝え、年中夢球さんは少年野球界をより良き方向に導いていく意気込みだ。
■「年中夢球杯2025 全国学童軟式野球大会」参加チーム受付中
https://alljapanbaseball.net/honma1/
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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