全国V3の強豪に“異変” 遅刻蔓延、遠征連敗も…「めっちゃ強くなる」と断言するワケ
![多賀少年野球クラブの辻正人監督【写真提供:フィールドフォース】](https://full-count.jp/wp-content/uploads/2025/02/05152117/20250205_tsuji_of.jpg)
滋賀・多賀少年野球クラブが“根本”から育む自主性「今はガマンして待つ」
学童野球の名将・辻正人監督のもとで全国大会の常連となり、日本一3度の実績を積み上げてきた滋賀の強豪・多賀少年野球クラブ。しかし、現在の新チームは遠征でも思うように白星を挙げられないなど苦戦中だという。その要因はどこにあり、それでも“チームが明るい”理由は何なのか。選手自身の成長を重視する指揮官の、革新的な取り組みに迫る。
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2016年に全国スポーツ少年団軟式野球交流大会で初優勝。「小学生の甲子園」全日本学童マクドナルド・トーナメントは、2017年から7大会連続出場中で、2018年から2連覇を達成している。
滋賀県の多賀少年野球クラブは全国屈指の強豪だが、5年生以下の新チームは例年になく苦戦している。実力で3班に分けたうちの最上位のグループでも、1月初旬の東京遠征で負け越し。翌週は岡山県の招待大会で2勝2敗、その後も勝ったり負けたりで勝率は上がってきていない。
ところが、チームを率いる辻正人監督は「めっちゃ、強くなると思います!」と声を弾ませる。それはいったい、なぜか。チームの創設者でもあり、指導歴37年目となる指揮官とチームの横顔に迫った。
辻監督には『現状維持は衰退の始まり』という不変の哲学がある。2018年に「卒・スポ根」へと大きく舵を切り、野球のゲーム性を学んだ選手たちが主体的に運ぶ「脳(ノー)サイン野球」で全国2連覇。これを機に学年9人に満たなかったチームは100人規模となり、現在は5年生以下の135人(幼児含む)が活動中だ。月々の会費は1000円でも、絶対数が増えたことで打撃マシンなど設備面も充実し、合理的な練習を実現している。
毎年の取り組みや指導に何かしらの変化があるのも特徴で、一昨年からは平日2日間の夜間練習を自由参加とし、遠征以外の週末は原則として半日活動など「時短」を断行。昨年からは最上級生中心のトップチームを実力で複数班に分けて、練習試合を同時進行。選手の入れ替えも随時行い、競い合いによる全体の底上げと体力強化を図っている。
「子どもらに『楽しめ!』という言葉は、もう一切聞かれません。当たり前なので。新チームでメスを入れているのは、野球ではない部分。上辺だけではない、ホンマの『自主性』を育むために、私はもちろん、保護者にもガマンをしてもらって、子どもたちと距離を置くようにしています」(辻監督)
![1月の東京遠征でベンチの大人はスコア係のマネジャーのみ【写真提供:フィールドフォース】](https://full-count.jp/wp-content/uploads/2025/02/05152108/20250205_taga_of.jpg)
練習時間に遅れてくる親子…“慣れ”で大人が環境をつくってしまった
きっかけは遅刻の蔓延と常習化だった。遠方から通う子も多数いるため、集合時間などタイムスケジュールにもある程度の幅をもたせてきた。しかし、気づけば近隣に住む選手も平然と時間に遅れるように。
「明らかにダメなほうに向かっていることに去年から気づいてました。『慣れ』によって、大人がそういう環境をつくってしまっている。言い方は悪いけど、無菌室で子どもを育てているような状態やったので、あえて病気にもさせようと思って」
こう振り返る辻監督が試験的に導入したのが、保護者なしでの週末の遠征試合。各自の身の回りのことは当然、共有する道具類の確認やチームバスへの出し入れ、時間の管理なども選手たちにほぼ丸投げ。指導陣はできるだけ介入しないようにしたという。
「指導者が『自分で考えて行動しろ!』と言ってる時点で、子ども主体ではないので。そういうのも言わんと、任せて待つ」(同監督)
1月の東京遠征には保護者も帯同したが、3日間で21試合という強行軍の途中からは、辻監督がベンチを外れて静観。戦術面だけではなく、投手を含む守備交代や途中出場なども選手たち自身で行っていた。
「かわいい子には旅をさせろ! ですね。監督の私がベンチにいると、子どもらは私が言うことを聞き逃さんようにしながら野球をする。その私がベンチを完全に離れることで、必然的に意識が自分中心にくる」
案の定、プレーも試合運びも思うようにいかず、関東の強豪チームに敗北も続いた。しかし、辻監督は報道陣にこう言った。
「勝ちにこだわるのはいいし、勝ちたい気持ちは私自身にも揺るぎのないもの。でも一方で、スポーツをしているこの時間は、子育ての大事な場所なんですよ。特効薬ではないけど、子どもは自分の機嫌を自分で取りながら成長していくはず。それを今はガマンして待っているところですね」
![ネット裏で試合を静観する辻監督(奥)は「任せてガマンして待つ」【写真提供:フィールドフォース】](https://full-count.jp/wp-content/uploads/2025/02/05152056/20250205_taga2_of.jpg)
カップ麺の作り方もわからない“温室育ち”の子どもたちに変化が
その後も保護者なしの遠征を重ねる中で、指導陣が驚くことも多々あった。カップ麺でも勝手を知らない子がいたり、移籍間もない子が「トイレに行っていいですか?」など逐一の許可を求めてきたり。でも、あえて大人が距離を置き続けることで、温室育ちの子どもと集団に変化が見え始めたという。
「自分たちで会話ができるようになってきて、めちゃめちゃ元気で明るくなりましたね。元々、言われたことをやるのは得意な子たちが、物事の善悪の判断から自分でするようになってきましから。まだまだイザコザもあるでしょうし、保護者から異論も出ると思うけど、何も心配してません。子どもらが成長していく、その過程のマネジメントが私のワクワクであり、エネルギー源ですから」(同監督)
4年生の時代には西日本大会で優勝など、元々の実力が高いチーム。昨夏の全国大会でプレーした選手も複数いる。最上級生となった選手たちは、勝ち続けることよりも尊いものを得ているのかもしれない。
「小学生の甲子園」の予選となる滋賀大会は、3か月後の5月の大型連休中にある。勝負どころに限らず、個々と集団の進化は11月の卒団まで続いていきそうだ。
〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。JSPO公認コーチ3。
(大久保克哉 / Katsuya Okubo)
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