入部希望の保護者に「ウチは厳しい」 部員不足で解散→全国V強豪に復活を遂げた理由

魚住フェニックスを率いる熊崎清龍監督【写真:橋本健吾】
魚住フェニックスを率いる熊崎清龍監督【写真:橋本健吾】

一時解散も現在は部員50人超…小学生チーム「魚住フェニックス」率いる元甲子園球児の信念

 野球人口減少で部員不足に悩むチームが多いなか、年々メンバーを増やす少年野球チームが存在する。一時は解散しながらも、全国大会優勝を果たすまでに復活したのが、兵庫・明石市の「魚住フェニックス」だ。今年で再結成7年目のシーズンを迎える熊崎清龍監督は、「子どもたちに必要なことは何か。アカンことはアカンと言える環境を作っています」と口にする。

 魚住フェニックスは巨人の平内龍太投手が所属するなど、かつては関西の強豪チームとして知られていたが、部員不足もあり2014年に解散していた。当時、ヘッドコーチを務めていた熊崎監督は指導の場を求め、高校野球の指導者として再出発。それでも、息子が小学1年生を迎えた時に転機が訪れた。

 息子を含め野球好きの子どもたちを目の当たりにし「理想のチームを作ろう」と、2019年に魚住フェニックスを再結成させた。過去の実績も関係なく、ゼロからのスタート。当初は息子の友人など5、6人しか集まらず、監督自らビラ配りも行ったという。それでも「子どもたちと真摯に向き合えば、結果は後からついてくる」と、野球だけでなく人間性を含めた育成を掲げ指導を続けた。

 熊崎監督が一番、大事にしているのが選手への声掛け。「上手い選手、好きな選手だけの指導者は多い。野球経験の浅い子ほど声掛けは大事にしてほしい。これはコーチ陣を含めて徹底しています。預かっている選手はみんな平等。子どもたちはちゃんと見ています」。グラウンドに来た選手には1人1人と握手を交わし、挨拶を行う。声のトーンや表情、何気ない仕草で体の状態をチェックする。

現在は男女約50人を超える部員が所属する【写真:橋本健吾】
現在は男女約50人を超える部員が所属する【写真:橋本健吾】

外国人選手に圧倒も「違う形で勝負できた」…伝える諦めない大切さ

 チームの体験会に来る保護者にはあえて「ウチは厳しいです」と伝えている。野球の上手・下手は関係ない。グラウンド整備、道具の扱い、練習態度などを疎かにする選手にはゲキが飛ぶ。練習中も一歩先のプレーを想定しながら、本番と同じ緊張感が漂う。もちろん、罵声や怒声はないが「指導者が遠慮して何も言えない状況は違う。社会を生きるために必要なものは必ずある。子どもたちが中学、高校で苦労すると思う」と、信念がブレることはない。

 熊崎監督は高校時代、滝川第二の主将として1999年の甲子園に春夏連続出場。エース・福沢卓宏投手(元中日)を擁し夏はベスト8に進出し、外野手としてU-18日本代表にも選出された。日大に進学し、その後は米国でもプレーしたが、ダイナミックでパワー溢れるプレースタイルを目の当たりにし現役を引退している。

「僕は身長が170センチしかなくて、当時は外国人のパワーに圧倒されて諦めてしまった。今思えば違う形でも勝負できたんじゃないかと考えてしまう。だからこそ、子どもたちには諦めないことの大切を伝えています。そのためには考えて動くことが大事。行動じゃなくて“考動”しようと。人間的にも野球人としても自分がどうありたいか。僕たちはそれをサポートするのが仕事だと思っています」

 再結成当初は9人にも満たない状況から、今では男女約50人を超える部員が所属するチームに成長した。2023年には決勝戦が甲子園で行われた全国大会「ミズノドリームカップ」で優勝。昨年の「第21回オリックス・バファローズCUP2024少年少女軟式野球大会」でも頂点に立ち、勢いは止まらない。野球を通じ選手としてだけでなく、人としても成長するため、熊崎監督はこれからも子どもたちと向き合っていく。

(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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