“倍増中”の女子野球で挑む「町おこし」 推し活も自然発生…地域を熱くする魅力とは?

女子学童チーム発足で底辺拡大も…長野・松本市が見据える地域振興の新たな姿
近年活気づく女子野球の魅力を発信し、地域活性化を目指している自治体がある。全日本女子野球連盟の推進事業「女子野球タウン」として、2021年に全国で8番目に認定された長野・松本市だ。トップレベルの高校女子野球が集う大会「ローズカップ」の開催誘致や、地元出身のお笑いと画家の“二刀流”芸人の起用など、地域住民と共に作り上げるオリジナルの取り組みを実施。同市役所文化観光部スポーツ本部スポーツ事業推進課の新たな試みに迫る。
令和に入り、女子野球界が活気づいている。中学生以上の女子硬式野球チーム数は10年前と比べて倍近くに増え、2021年には全国高校女子硬式野球選手権の決勝が甲子園で開催された。最近ではマリナーズ・イチロー氏がヤンキースで活躍した松井秀喜氏、レッドソックスで活躍した松坂大輔氏らとともに東京ドームで女子高校野球代表と対戦したのも記憶に新しい。
女子選手にとっての選択肢が広がる中、地域振興に活用できないかと動いたのが松本市だ。同市女子野球タウン推進事業の指揮を執る山本茂さんは、旧松本市四賀球場の大規模改修工事をきっかけに、地域住民の協力と野球愛によって、スピード感を持って「女子野球タウン」認定を実現させた。
2021年に「信州グリーンローズスタジアム四賀」としてリニューアルした人工芝の球場は、標高710mの高原に位置する。近くには約400株のバラが咲き誇る四賀バラ公園もオープンし、文字通り花を添えた。そして、バラにちなんだネーミングに生まれ変わった球場を“女子野球の聖地に”と、高校女子硬式の7地域リーグ代表と、地元の松本国際高校を含む8チームによる全国大会「松本ローズカップ」を2023年から開催。それに合わせ、ベンチ裏に女子選手専用トイレも設置した。
地元・松本市出身のイラスト芸人・ヤボンスキーこばやし画伯の描いたポスターも話題となり、選手たちからも好評を得た。大会を通じ、「改めて女子野球には華があり、心からスポーツを楽しむ姿にわくわくさせられました」と山本さんは顔をほころばせながら話す。
地域住民による反応も上々だ。大会期間中は、出場8チームそれぞれに、有志による応援団が町会ごとに結成され、鳴り物入りの応援を披露。選手やスタッフなど関係者約300人に豚汁をふるまうサービスも行われた。これらはいずもれ運営側による依頼ではなく、地域住民が自発的に結束し、知恵を出し合ったもので、女子野球と我が町を応援する“推し活”に結びついた。また、女子だけの学童チーム「C・ガールズ」を発足させるなど、野球人口の底辺拡大も進んでいる。

「懸命なプレー」の女子野球を“本当に見てもらいたい人”に届けるファンづくり
松本市ではほかにも、女性がスポーツに取り組みやすい環境づくりのための女性アスリート向け講演会や、関東地方を中心とする女子硬式野球の地域リーグ「ヴィーナスリーグ」公式戦の開催を実現するなど、女子野球の人気向上、地域活性化のためのコンテンツづくりに余念がない。
しかし、まだまだ課題も多く、「女子野球を本当に見てもらいたい人たちに、見てもらえていない」という歯がゆさも感じているという。
この事業に2022年から携わる中島涼奈さんは、「女子野球の選手は、競技を通じて“楽しい・悔しい”といった気持ちを表現する。野球になじみのなかった私でも、スポーツをやっていた頃を思い出し、心に熱いものを感じさせてくれます。1人でも多くの方に見てもらうために、身近な人同士で誘い合って応援に足を運んでほしい」と、今後もSNSなどを使ったPR活動に力を入れていく予定だ。
2024年から携わる東山睦子さんも、事業を通して野球への興味が芽生えたといい「私にとって女子選手は娘世代にあたり、その一生懸命なプレーや普段の様子を見ているだけで微笑ましく、つい笑顔になります。そんな楽しみ方も知ってもらいたい」と、独自の“推し目線”で魅力を語ってくれた。
最後に山本さんはこう締めくくった。「今後も『女子野球タウン推進事業』を単なるスポーツの普及にとどまらず、地域社会の発展やジェンダー意識の向上といった幅広い目標を追求していきたい」。
女子野球選手には、楽しい野球からさらに上を目指すための環境を整え、地域住民には、特産品や観光といった地域の魅力の発信を、“推し活”として推奨する松本市。女子野球を通じた地域活性化への新しい取り組みに、今後も注目したい。
(吉田三鈴 / Misuzu Yoshida)
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