渡米9か月で最速151キロ“大変身” 覆された常識…米国式遠投で掴んだ「初の感覚」

「Be an Elite.」を運営する松本憲明氏【写真:本人提供】
「Be an Elite.」を運営する松本憲明氏【写真:本人提供】

球速アップ特化アカデミー・松本憲明氏…MLB目指す過程で劇的に変えた体の使い方

 どん欲に知識を吸収する姿勢が、球速150キロ到達につながった。愛知・名古屋市で球速アップに特化した米国式野球アカデミー「Be an Elite.」を運営する松本憲明さんは、現役時代に渡米した経験が指導者になって生きている。遠投の仕方や体の使い方など、日本にいた頃とは全く違う教えを受けて大変身。その財産を現在、小・中学生を中心とした選手たちに引き継いでる。

 長年当たり前だと思っていた常識が、渡米後すぐに覆された。松本さんは愛工大名電で甲子園に出場し、高校卒業後は東洋大に進学。しかし、大学1年の時に肘を故障してトミー・ジョン手術を受け、2年夏に大学を中退した。肘の状態が回復してからは独立リーグの徳島インディゴソックスに入団。2年間在籍した後、メジャーリーガーを目指して米国へ渡った。

「日本でアルバイトをしてためたお金を持って、3か月間米国で過ごし、お金がなくなったら日本に戻ってまたアルバイトする形を3度繰り返して、計9か月米国に滞在しました。宿泊する場所がないので空港のロビーで寝たり、街で声をかけて家に泊まらせてもらったりしました。メジャーリーガーになりたい一心で、毎日を必死に生きていましたね」

 メジャーリーガーになる夢はかなえられなかった。ただ、松本さんは今につながる財産を得た。米国式の技術や練習法で、球速の最速が143キロから151キロまで向上したのだ。

「米国では日本でプレーしていた頃と180度違うことを言われました。自分は探求心が強くて新しいことをやってみたいタイプですし、お金を払って米国に行ったので、パフォーマンスアップにつながる可能性があることは何でも耳を傾けて取り入れようと思っていました」

米国では遠投への指導も日本と異なった(写真はイメージ)【写真:Getty Images】
米国では遠投への指導も日本と異なった(写真はイメージ)【写真:Getty Images】

「届かない」と思ったボールが失速せず…今までにない感覚で腕振り

 米国で受けた指導は驚きの連続だった。例えば、投手の定番メニューとなっている遠投は「山なりで良いから、とにかく遠くに投げなさい」とアドバイスされたという。日本では低い軌道で投げるように言われ続けた松本さんは、半信半疑でやり始めた。すると、数週間後に忘れられない感覚と出合う。

「米国でキャッチボールをしていると、ものすごいペースで相手が距離を取っていくんです。遠投大会みたいに助走をつけて投げていました。ある日、遠投していたら肩が抜けるような感じがありました。『あー、届かない』と思ったボールは失速せず、相手まで届きました。今までにない感覚で鮮明に覚えています。その投げ方と同じようにマウンドで腕を振るようにしたら、球速が上がりました」

 松本さんは渡米前、球速が140キロ台前半で伸び悩んでいた。プロで活躍するには球速アップが不可欠と感じていたという。体の使い方を変えたことで、目標としていた150キロに到達。下半身の使い方も日本でプレーしていた頃とは大きく変えた。

「軸足に体重を乗せて、踏み出す足に体重を移す“並進運動”は、米国では『ゴー、ファースト』と言われて、とにかく動きを速くするように言われました。日本では下半身の粘りや“タメ”と表現され、どちらかと言うとゆっくりの動きが推奨されています。速く動いた方が大きな力を生み出せるので球速が上がります。体の使い方や練習方法の理由・目的を明確に説明してもらえるところも、日本との違いを感じました」

MLBに挑戦した中で得た経験を小中学生に伝える【写真:本人提供】
MLBに挑戦した中で得た経験を小中学生に伝える【写真:本人提供】

「もっと早く身に付けられたら」…知識や経験を小・中学生に伝える

 松本さんは短期間の渡米で確実に成長した。だが、1つだけ後悔もあった。「もっと早い年代で身に付けられていたら、結果は違っていたかもしれない」。長年続けてきた投球フォームのクセを修正するのは想像以上に苦労した。頭では理解していても体を思うように動かせない。だからこそ、小・中学生を指導する立場となった今、米国で得た知識や経験を丁寧に伝えている。

「クセが抜けなくて、なかなか上手くいきませんでしたが、何千、何万と動きを繰り返して理想の形に近づけていきました。自分が子どもたちを指導する立場となって、効果的に力を出すフォームを早いうちに身に付けてほしいと強く思うようになりました」

 松本さんは選手として大成できなかった。だが、米国で挑戦したことで指導者としての道が開かれた。「全てではありませんが、日本と米国の違いに直接触れられて良かったです」。米国では自らプレーし、指導法も学んだ。帰国後は脳科学や心理学なども勉強し、指導の引き出しを増やしている。ネクストキャリアでは選手育成でトップを目指す。

(間淳 / Jun Aida)

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