野球選手の成長に「パンより米」を推すワケ 少食の子を助ける“おにぎりの絶大利点”

管理栄養士の渡邊元美さん【写真:伊藤賢汰】
管理栄養士の渡邊元美さん【写真:伊藤賢汰】

見過ごされがちな「補食」の重要性…おにぎりが最適な理由を横浜高校元寮母が解説

 小・中学生の野球選手は、1日3食だけでは必要な栄養を摂りきれないことが多い。そのために重要になるのが、3食以外で必要栄養素を補う“補食”だ。横浜高校野球部の寮母を20年間務め、アスリートを対象とした栄養指導などを行っている管理栄養士の渡邊元美さんは、「活動するために使う栄養と、成長に必要な栄養を、両方をしっかり確保するには補食が欠かせません。食べる量が少ないと活動のために栄養を使い切り、成長に必要な栄養が足りなくなる可能性があります」と語る。その上で、補食に最適な食べ物が“おにぎり”だという。

 補食とは単なる間食(おやつ)ではない。成長に必要なエネルギーを補給するためのものだ。プロテインのようにタンパク質の摂取優先になりがちだが「それはもう少し体が成長し、競技のステージを上げた後でも十分」と渡邊さん。「プロテインに頼り切ると、安心して食事がおろそかになることも……。小学生くらいなら基本的にきちんと3食を食べていれば、必要なタンパク質は摂れています。まず食事で栄養を整えることが大事」と強調する。

 特に成長期は栄養バランスの取れた食事が重要だ。三大栄養素である炭水化物(糖質)、タンパク質、脂質をしっかり摂取できていなければ、体が大きくならない、背が伸びない、体力がつかないなどに繋がる恐れがある。コンビニのお菓子やジュースを摂りすぎると、余分な脂質や糖質が多くなりバランスを整えることは難しい。

「まずは基本的な食事の質を上げること、そして1食では摂りきれない分を補食でカバーすることが大切です」

 そこで、渡邊さんがお勧めするのが、お米だ。米1合(どんぶりで軽く1杯程度)と同じエネルギーを摂ろうとすると、食パンでは6枚切りの約5枚分に相当する。パンが好きでも5枚を一度に食べる人は少ない。どんぶり軽く1杯の方が食べやすいと感じるだろう。「米には脂質がほとんどなく、エネルギーに変換されやすい特徴もあります。パンと比べて脂質が少なく消化も良いので、練習前後の補食としておにぎりが最適なのです」と説明する。

小さめにつくれば短時間で食べやすく補食に最適【写真:伊藤賢汰】
小さめにつくれば短時間で食べやすく補食に最適【写真:伊藤賢汰】

息子の楽天・渡邊は「本当に食べられないようで苦労していた」

 おにぎりの大きな利点は、まず量の調整が簡単なところ。一度に多くの量は食べられないという子は多いが、「おにぎりであれば、食べる量に合わせて、小さく握ったり大きめに作ったりできます」。

 もう1つの大きな利点が、具材を工夫することで、様々な栄養素を手軽に摂取できるところ。昆布、梅干し、鮭などの定番の具材に加え、野菜を細かく刻んで混ぜ込んだり、タンパク質の豊富な食材を組み合わせたり、工夫次第で栄養バランスを整えられる。持ち運びもしやすく、小さめにつくれば短時間でも食べやすく、練習や試合の際に理想的な補食となるのだ。

 こうした工夫は、渡邊さんの実体験に基づいている。現在楽天で活躍する息子の佳明選手は、幼い頃から体が小さく食が細かったという。「一生懸命作ったお弁当も残してくる。本人も食べなきゃいけないとわかっているのに、本当に食べられないようで苦労していました」と振り返る。

 最近はスポーツ栄養学も浸透し「デカ盛りご飯を一度にたくさん食べる」指導も減ってはきたが、少なからず行っているチームもある。「長時間激しい運動を続ける成長期のアスリートにとって、たくさん食べなければいけないのは確か」でも、少食の子にとって一度に無理に食べさせても、消化不良で逆効果になることも。「そこで私なりに考えた工夫が、ひと口サイズのおにぎりだったんです」と渡邊さんは語る。

「子どもの食事に悩んでいる方々を助けたい」と渡邊さん【写真:伊藤賢汰】
「子どもの食事に悩んでいる方々を助けたい」と渡邊さん【写真:伊藤賢汰】

 ちょっとの合間にパッと食べられるサイズは、少食の子どもたちの強い味方になる。大きなおにぎりよりも、ひと口サイズなら手が伸びやすい。

「私自身、息子の食生活を振り返ると、正しかったこともあるし、もっとこうすればよかった、と後悔していることもあります。多くの失敗や後悔を経験する中で、後から気づいた効果的な方法もありました。現在、わが子の少食やスポーツをしているのに十分な量を食べてくれない、そんな心配をしている、悩んでいる方々の助けになればと思っています」

 ただでさえ慌ただしい毎日で、おにぎりを握るのも保護者にとっては容易ではないが、下校した子どもが、お菓子の代わりにおにぎりを食べれば、必要な栄養素が多く摂れるしエネルギーも充電できる。日々の練習と成長のサポートへ、「それぞれのやり方で、わが子に合ったおにぎり作り」に挑戦してみませんか。成長期は期間限定。ちょっとした工夫と愛情を込めた手作りも、必ず未来のアスリートたちの大きな力となるはずだから。

(大橋礼 / Rei Ohashi)

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