ビデオ検証導入も…分かれる“見解” 時代の流れに抗う指揮官「異議を唱えるのは失礼」

東京六大学で今季から導入…早大・小澤の二盗がセーフ判定から覆る
連盟創立100周年を迎えた東京六大学野球の春季リーグで14日、今季から新たに導入された「ビデオ検証」が初めて実施された。1試合に2度要求した東大・大久保裕監督や、「私は使うつもりはありません」と明言した早大・小宮山悟監督など、監督の対応は分かれた。
今季第1週2日目の第2試合で行われた早大-東大2回戦。“歴史的”なシーンは早大が3-1とリードして迎えた5回の攻撃中に訪れた。無死一、三塁で一塁走者・小澤周平内野手(4年)が二盗を仕掛け、微妙なタイミングとなるも判定は「セーフ」。ここで大久保監督がベンチを飛び出し、東京六大学史上初のビデオ検証を要求した。ビデオルームで検証がなされた結果、判定は「アウト」に変更された。
ビデオ検証は今月10日、東京六大学野球連盟の理事会で承認された。9イニングで1度、延長戦に突入した場合はもう1度要求することが可能で、判定が覆った場合はカウントされない。国内学生野球では今年から仙台六大学野球リーグとともに、いち早く導入された。大学野球の他のリーグはもちろん、高校野球にも影響を与える可能性がある。
“第1号”となった大久保監督は「ベンチから見ていて、その前に盗塁がアウトになったプレーがあり、同じくらいのタイミングでアウトかなと思ったらセーフだったので、お願いしました」と振り返る。ビデオ検証の意義について「モヤモヤしたところがなくなる。審判の方々の意見も踏まえて導入し、カメラの技術も向上しているのだから、際どい判定に関してはお互いはっきりさせた方がいいという趣旨だと思います」と語った。
一方、二盗が「成功」から「失敗」に変わった小澤は、試合後の会見で「実は自分自身もアウトだと思ったので……アウトでした」と吐露した。隣に座る小宮山監督から「だったら、二塁にいないで(ベンチへ)帰ってこいよ」とツッコミが入ると、「(ビデオ判定で)もしかしたら画角的に映っていないかもしれないと思いまして……」と笑わせた。
さらに大久保監督は、3-10とリードを広げられた後の7回の守備でも、2度目のビデオ検証を要求した。1死三塁で打席に入った小澤が、二塁手の前へ弱い当たりの打球を放ち、一塁へ駆け込むのと、ベースカバーの投手が一塁ベースを踏むタイミングが微妙となった。判定は「セーフ」。しかし、今度は判定が覆ることはなく、セーフのまま試合は続行された。
東大・大久保監督「やってよかったと思います」
大久保監督は「点差はついていましたが、アウトかセーフかで(試合の流れは)変わってくる。やってよかったと思います。使えるものは使いました」とうなずいた。
対照的だったのは、相手の早大・小宮山監督。「(ビデオ検証導入は)世の中がそういう流れで、プロ野球の中継でみんな見ているでしょうからしかたがない」とした上で、「何度も言っていますが、運用面で当事者の選手にアピールする権利がないところが、いかがなものかなと思っています」と持論を述べた。
さらに「(今後もビデオ検証の要求は)しません。する気はないです。近くにいる審判の判定に、遠くのベンチから異議を唱えるのは失礼だと思っていますので。選手たちにも伝えてあります。そもそも学生が抗議することはあってはならないということですから、それに従いましょうということです」と明言した。
第1試合の立大-慶大2回戦でも、ビデオ検証になりそうな場面があった。5-1とリードした立大は4回の攻撃で、2死二塁から村本勇海内野手(2年)が右前打。二塁走者の桑垣秀野外野手(4年)が本塁へ突入した。捕手のタッチと、それをかわしながら左手でホームベースに触れた桑垣のタイミングは微妙。さらに捕手のタッチが桑垣の体に届いていたかどうかも微妙だったが、判定は「アウト」となった。
立大の木村泰雄監督は試合後の会見で「(ビデオ検証が)頭をよぎりましたが、(試合は序盤で)まだここではないかなと思いました」と明かした。「できれば“第1号”にはなりたくない、という思いもあったのですか?」と聞かれると、「思いとどまった後に、そういうことも考えました」と苦笑した。大久保監督が先鞭をつけたお陰で、他校の監督が要求しやすくなった面はあるかもしれない。
リーグ戦に新しいシステムが導入され、当初は話題になるのも当然だろう。今後、高校野球などに広がっていくかどうかに注目が移る。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
