投球せずに球速を上げる チューブを使って実践できる2種類のトレーニング
投球動作を考慮した方法と一般的な方法、トレーニングの結果を比較してみると…
肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「怪我をしないこと」だと語ります。練習での投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。
では、成長期の選手たちが故障をせず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、実際の研究に基づいたデータも交えながら、怪我をしない体作りのコツを紹介していきます。今回の担当は齊藤匠さんと貝沼雄太さん。テーマは「投球をせずに球速を上げるトレーニング方法」です。
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投手にとって球速は重要な要素の一つです。では、球速を上げるためにはどのようなトレーニングをすると良いのでしょうか。投げ込みも必要かもしれませんが、当然ながら肩や肘を怪我する可能性が高くなります。そこで、投球をせずに球速を上げるトレーニング方法について見てみたいと思います。
今回紹介するのは、ニュージーランドで行われた研究です(※1)。大学に所属するソフトボール選手を対象に、チューブを使用した2種類のトレーニングを実施。2種類のトレーニングとは、投球動作を考慮した方法と一般的に行われている方法です。
週3回のトレーニングを8週間行った結果、投球動作を考慮したトレーニングをした選手は球速が3.7キロ向上。一方で、一般的に行われているトレーニングをした選手の球速は1.7キロの向上だったそうです。
一方で、投球動作を考慮したトレーニングをした選手は肩関節の可動域(肩関節が動く範囲)が2〜4度減少したという結果も。研究者はここに着目し、可動域の減少は投球に必要な筋肉に多くの刺激があった結果、つまり「可動域の減少=有効なトレーニング」と捉えました。そして、投球に必要とされる筋肉のトレーニングになっていることも考えられるとして、怪我の予防や怪我から復帰する段階でのリハビリテーションにも有用であると研究ではまとめています。
投球動作を考慮したトレーニングには、肩関節を回す動作や大きく動かす動作が多く取り入れられています。代表的なトレーニングを紹介しましょう。