練習中に子どもが「アイス食いたい」 “野球嫌い”を防ぐ受け皿に…部員急増の異色チーム
東京都江東区「Kincon」の特色「令和の子には令和のスタイルがある」
東京都江東区で活動する「Kincon」は、親子2人で立ち上げてから2年足らずで、40人を超える小中学生がプレーするようになった学童野球チームだ。代表の佐藤輝彦さんは「僕はこの子たちのことを、友達だと思っています」と言うほど、指導者と子どもとの垣根が低い。それこそが「野球をやりたい」という子どもたちの気持ちを引き出すのだという。
「Kincon」の活動風景を見ていると、子どもたちが総監督の佐藤さんのもとにどんどん集まってくる。「最初は僕のこと、怪しんでいますけどね。おっさんですから。でも子ども1人1人と向き合っていると、だんだん距離がなくなってくる。『アイス食いたいんだけど』とか練習中に言われたり、ホースで水をぶっかけても来ますよ」。
チームコンセプトとして、「子どもたちの『もっとやりたい』を引き出す」と掲げている。そのために怒鳴らない、威圧しない、試合に出られない子をつくらないというルールも決め、厳守している。
「道具を大事にしないとか、締めるところは締めますよ。でも締めっぱなしで1日ノックを受けるとか、昭和の野球はもう通用しない。令和の子たちには、令和のスタイルがあると思うんです」
楽しく感じてもらうことさえできれば、子どもたちは自分から「もっとやりたい」と言いはじめる。「Kincon」の子どもたちは、雨が降って練習が中止になると、心の底から悔しがり“抗議”してくるという。厳しいチームでは「練習がなくなって良かった」と思う子も多いところだ。さらに、試合での起用法でも決めていることがある。
「練習試合はとにかく全員出します。試合前に伝えますよ。そうすると子どもたちは『よし、出られる』と思うじゃないですか。ただ大会に関しては、出られるとは限らない。これもしっかり伝えます。子どもたちも分かっています。そうすると『出られるために、努力しようよ』となりますよね」
佐藤代表の願い「野球を続ける受け皿に」全軟連も移籍を容認
実はこの方針は、佐藤さんが約40年前に「Kincon」の前身「キングコンドルズ」で味わった体験がベースだという。「とにかく怒らない監督でした。当時は珍しかったと思います。試合の時も『大丈夫だから、あれだけ練習したんだから大丈夫だ』と声をかけてくれて、それがどれだけ支えになったか。で、活動後にラーメンを食べに連れて行ってくれたりね」。実際、地区を勝ち抜いて都大会に進んだこともあった。楽しむことが、大きな力になっていた。
大切なのは子どもたちからの信用だ。「このおっさんは面白いと思ってもらえればいいんです」。練習では一つ一つのプレーに歓声が上がる。するとどんどん楽しくなるという魔法にかかるのだ。
その上で佐藤さんには、願いがある。「何らかの事情で脱落してしまった子が、野球を続けるきっかけ、受け皿になれないかと考えているんです。野球が嫌いなのと、チームが嫌いなのは別」。楽しそうな活動の様子が伝わると、様々な相談を受けるようになった。野球を続けるべきか、やめさせるべきか悩んでいる親からが多い。そういう時には「選択肢は1個じゃない」と伝えているのだという。
「そのチームで続けることが子どもにとって重いのなら、違うチームでやればいいんです」
昨夏、学童野球を統括する全日本軟式野球連盟は、選手の移籍を事実上自由化した。以前は有力選手の引き抜きを防ぐ意味から、年度内の他チームへの登録はできなかったのが、相応の理由があれば移籍登録を可能としたのだ。理由としては転居や、指導者からのハラスメントなどが想定されている。
「Kincon」には、千葉や都内でも西部のエリアから参加している子もいる。最初はどこか不安そうだった子どもたちが、野球を楽しみ始めるとパッと表情が変わるのを佐藤さんは見てきた。「だから、やれるだけやってみ、と子どもたちには言いたいですね」。楽しく、長く続けることができれば、野球と仲間がきっと人生の財産になる。
(羽鳥慶太 / Keita Hatori)
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