「ドラマのような展開」で学童日本一 痛恨ミスから1年…慰めの言葉をかけなかったワケ
昨年は準決勝で敗退…大阪の「新家スターズ」がマクドナルド杯で初V
慰めの言葉が優しさとは限らない。日本一を達成した要因には、信頼関係で裏付けされた厳しさがあった。今夏の「高円宮賜杯第43回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」で初優勝を飾った新家スターズ(大阪)の千代松剛史監督は、昨年からの主力メンバーにあえて厳しい言葉をかけて成長をサポートしていた。
昨夏の悔しさを歓喜に変えた。1年前のマクドナルド・トーナメント準決勝、新家スターズは優勝した中条ブルーインパルスに1点差で敗れた。逆転を許したのは、当時5年生だった三塁手・貴志奏斗内野手の悪送球だった。
その貴志選手は今夏、主将としてチームをけん引した。決勝戦では最後の打者が放った三遊間への強いゴロを横っ飛びで捕球し、一塁への正確な送球でアウトにした。チームを率いる千代松監督は「貴志が三塁ゴロをアウトにして優勝が決まるドラマのような展開でした。この1年の頑張りが報われた瞬間でしたね」と振り返った。
昨夏の敗戦直後、千代松監督は貴志選手に一言だけ伝えた。「新チームの主将を任せる。1年後に、このミスがあって良かったと言えるように一緒に頑張っていこう」。ミスを慰める優しい言葉はかけなかった。
「ドンマイと慰めたところで、貴志の心が穏やかになるとは思えませんでした。悔しさを乗り越える大人になってほしいという思いもありますし、貴志は私の気持ちを理解していると確信がありました」
「お互いに理解している」厳しい言葉の裏にある信頼関係
全国大会でベスト4入りしたチームに5年生でメンバー入りしている貴志選手は、6年生では中心選手として期待されていた。その自覚が本人にあると千代松監督は分かっていた。
「平日練習を含めると年間300日くらいは一緒に過ごしています。お互い全てを口にしなくても理解できていると思っています。私は貴志を慰めていませんが、6年生は貴志に優しい言葉をかけていたので安心感もありました」。貴志選手に必要なのは奮起を促す言葉だと判断した。
指揮官の意図を理解した貴志選手は、昨夏の悔しさを忘れずに練習した。昨夏の敗戦を知る他の6年生も「必ず、やり返す」と誓っていた。日本一を果たした今年のチームは、例年より突出した力があったわけではないという。ただ、全国への舞台にかける気持ちは際立っていた。千代松監督は「昨夏に準決勝で負けた時、子どもたちも大人も号泣しました。1年後にやり返すと子どもたちが頑張り続けたことが日本一の要因だと思っています」と語った。
全国制覇を決めると、千代松監督は貴志選手に「ありがとう」と声をかけた。その一言で思いは十分に伝わった。指導者がミスした選手を慰めるのは難しくない。厳しい言葉で気持ちを奮い立たせるのは日頃の信頼関係があってこそ。選手がどん底を経験した時、指導者の真価が問われる。
(間淳 / Jun Aida)
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