中学生の指導に“野球観”は不要 型にはめずに成長を重視「足が遅くても盗塁を」

世田谷西リトルシニア・吉田昌弘監督(左)と取手リトルシニア・石崎学監督【写真:加治屋友輝、伊藤賢汰】
世田谷西リトルシニア・吉田昌弘監督(左)と取手リトルシニア・石崎学監督【写真:加治屋友輝、伊藤賢汰】

ともに150人以上の選手所属…世田谷西リトルシニアと取手リトルシニア

 全国屈指の強豪チームには、意外にも明確な野球観はないという。ともに全国制覇を成し遂げ、150人以上の選手が所属する中学硬式野球チーム、東京・世田谷西リトルシニアと茨城・取手リトルシニアの監督が29日、野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」のオンラインイベント「日本一の指導者サミット」に登場。両指揮官は、チームのスタイルに目指す形はないと明かした。

 価値観や人生観という言葉があるように、成功している野球の指導者は野球観を問われることが多い。11度の全国制覇を誇る世田谷西リトルシニアの吉田昌弘監督と、3連覇を含む5度の日本一を達成している取手リトルシニアの石崎学監督は、イベントの参加者から「部員が多い中、監督の野球観を浸透させる上で工夫していること」を問われた。

 150人の選手を率いる石崎監督は「こういう野球をやりたいというものはありません。打撃のチームをつくりたい、守備のチームにしたいというスタイルにこだわりはないです」と答えた。選手は毎年入れ替わるため、個々の特徴を生かしたチームづくりを心掛けている。チームのスタイルは世代によって違うという。指揮官は「徹底しているのはチームの“ルール”です。勉強や電車の乗り方など、野球以外の部分でルールを守れない選手は、チームに所属されても厳しいです」と語った。

 160人を超える選手を指導する吉田監督も、「石崎監督と相談したわけではありませんが、うちのチームも野球観というものはありません」と回答した。打撃、守備、走塁と得意な分野を磨くのではなく、成長過程の中学生には全てでレベルアップを目指すように伝えている。

「プロは特徴や武器が大事になりますが、中学生は全部が得意になることを目指してほしいと選手たちにはよく言っています。足が遅くても盗塁を狙ってほしいですし、すごい打者でもセーフティバントを決めてほしい。体が小さい子も本塁打を打ってほしいと思っています。チームの特徴は何もなく、オーソドックスに全体的に野球がうまくなってほしいです」

スタイルや考え方を押し付けない指導が可能性を引き出す

 吉田監督も石崎監督と同様、野球スタイルにこだわりはない。選手を厳しく指導するのは、野球道具を雑に扱ったり、相手を気遣わずに話したりするプレー以外の部分。選手たちには「中学生で全部をあきらめるのは、まだ早い」と伝え、例えば自宅で30分素振りをするのであれば、素振りを20分にして残りの10分は別の練習をする選択肢を考えてもよいと提案する。

 吉田監督は所属する選手の人数が多くても、1対1の関係性を重視している。「選手はそれぞれ性格も体格もバックボーンも違います。全員に共通する指導は難しいので、会話を通じて臨機応変に選手との関係を築く柔軟性が大人には必要だと考えています」。日本一を何度も達成しても、その時のチームによって特徴は違う。決まったスタイルや考え方を押し付けない指導が選手の可能性を伸ばし、チーム力の強化につながっている。

(間淳 / Jun Aida)

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