親子で365日練習も…気づけなかった「利き手」 プロ注目、投球フォーム誕生への“苦闘”

「バネ投げ」を指導するBBMC・相澤一幸代表【写真:間淳】
「バネ投げ」を指導するBBMC・相澤一幸代表【写真:間淳】

BBMC・相澤一幸代表…腱を使った「バネ投げ」を指導

 子どもたちの努力を無駄にしたくない。腱を使って小さな力で大きなエネルギーを生む「バネ投げ」は、習得を目指すプロ野球選手も増えている。バネ投げを指導するベースボールメディカルセンター(BBMC)の相澤一幸代表が腱の理論にたどり着いた理由は、信じられない経験からだった。

 スポーツ医学や野球の動作改善などを専門とするBBMCの相澤代表は、「バネ投げ」と呼ぶ腱を使った投げ方を伝えている。指導するのは少年野球からプロ野球の選手まで幅広い。腱はバネのように元の形に戻ろうとする「復元力」と、軟らかい組織から硬い組織へと瞬時に変化して力を伝える「伝達力」に優れているという。相澤代表は腱を使った投げ方は肩や肘の故障リスクを軽減し、小さな力で大きなエネルギーを生み出せると説明する。

 バネ投げを指導するに至った背景には、自身の苦い経験がある。

 小学5年生から野球を始めた相澤代表は、投手としてプロ野球を目指し、父親と二人三脚で「人の5倍は努力した」という。練習するためにグラウンドを借り、“異次元の練習量”で周囲に知られていた。しかし、中学でも高校でもイメージする成長曲線を描けなかった。

「練習ができれば才能はあるという言葉を信じて、父親と一緒に365日練習しました。でも、どんなに努力してもパフォーマンスは人並みでした。球速も制球力も思うような効果や成果を得られませんでした」

 野球の経験がなかった父親とともに、スピードの速い投手やコントロールの良い投手と何が違うのかを徹底的に研究した。球速アップに効果があると聞けば、どんなトレーニングにも取り組んだ。投球フォームはサイドスローもアンダースローも試した。しかし、何をやっても成果は出なかった。高校で野球に区切りをつけてスポーツ医学や柔道整復術などを学ぶ中で、相澤代表は努力が報われなかった決定的な理由に気付いた。

指導を受ける選手たち【写真:間淳】
指導を受ける選手たち【写真:間淳】

自ら集めたデータで腱の理論構築…阪神の臨時コーチも経験

「実は左投げだったんです。私生活では全て右利きだったので、左で投げるという考えがありませんでした」

 相澤代表は箸を持つのも字を書くのも右手。だが、投げることだけは左利きだったのだ。本来の左投手へ転向するチャンスはあった。小学生の頃、仲間とゴムボールで野球をした時、相澤代表は、軟式ボールと重さが違うボールを投げると投球に影響が出ると考え、左手で投球した。

 すると、右よりもスピードは速く、ストライクも簡単に取れた。仲間からは「何で、そんなに上手く左で投げられるの?」と指摘されたが、相澤代表は利き手と反対の手でも自分と同じように、誰でもボールを投げられると思い込んでいた。そして、高校卒業後に「本来は左投げだった」と確信した。

「医学や運動学を徹底的に勉強し、野球上達者の体の使い方とどこが違うのか、プロ野球選手は一般の人より何が優れているのかを自分の体で研究を重ねました。その結果、行き着いたのが腱でした」

 腱に関する論文は見当たらなかったため、相澤代表は自分で集めたデータを基に理論を構築していった。バネ投げはプロ野球界でも知られるようになり、相澤代表は2018年に阪神の2軍、2019年には1軍で臨時コーチを務めた。

小・中学生への指導に尽力「自分のようになってほしくない」

「1軍と2軍の投手の違いを直接目にできたのは、貴重な経験になりました。私が学生の頃に直面した悩みと同じように、練習やトレーニングをしても球速が前年より落ちる選手、投げ方が分からなくなった選手から相談を受けました。プロは持っている能力が高いので、腱を使った投げ方を教えると短期間でパフォーマンスが上がっていきました」

 相澤代表は現在、小・中学生への指導に力を入れている。それは、かつての自分のようになってほしくないという願いが込められている。

「努力した選手には効果と成果を手にしてほしいと思っています。怪我のリスクが少なく、小さな力で大きなエネルギーを生み出せるバネ投げは、選手の可能性を広げられると考えています」

 本来は左投げだったことに気付かず、プロ野球選手の夢をあきらめた経験は今、選手の未来を明るくする財産として生きている。

(間淳 / Jun Aida)

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