「ついイライラ」怒鳴ってしまう…悩める大人たちへ チーム激変、無駄ない“正しい怒り方”
国立の強豪・和歌山大学野球部に変化をもたらした「アンガーマネジメント研修」
成長期の子どもたちへのスポーツ指導では、意味のない怒号や、時には暴言が問題にのぼる。怒鳴る監督・コーチに対して保護者が疑問を感じることもあるだろう。そんな親自身も、子育てでイライラするのは日常茶飯事だし、子どものちょっとした反論が火に油を注ぎ、“怒り大爆発”なんていうこともある。
私たちは“怒り”をコントロールできるのだろうか? 今回は、和歌山大学硬式野球部・大原弘監督と、日本アンガーマネジメント協会代表理事、新潟産業大学客員教授の安藤俊介氏の対談から、「アンガーマネジメント」と「自律型人材の育成」にフォーカスし、少年野球指導者やその親にとって、小さなヒントをお届けしたい。
大原監督は、近畿学生野球連盟3部だったチームを1部に引き上げ、リーグ優勝を5度果たすなど、国立大学有数の強豪校に育て上げた。実は、本職は学習塾の事業提携本部長。そこで培った組織学やリーダー学、ビジョントレーニングなどを練習に取り入れ成果を挙げてきた。
さまざまなノウハウは興味深いが、その1つにあるのが、部員たちと共に受けたという安藤氏による「アンガーマネジメント研修」。これは、チームに大きな変化を起こしたと大原監督は語っている。
「感情で怒りをぶつけるのではなく、相手に伝えたいことをきちんとわかるように伝えることによって、良いコミュニケーションがとれるということですね。それからは、チームでの話し合いが大きく変わりました」
怒る必要があるときは怒る…その“境界線”を持つことが重要
安藤氏はこう説明する。
「コミュニケーションで感情を混ぜて伝えてしまうと、本当に伝えたいことが伝わらなくなってしまいます。感情と切り離して、相手へのリクエストを明確に伝えるよう意識することが大事です」
これを少年野球の選手と保護者に当てはめてみよう。「相手の胸元にボールを返すようにキャッチボールをしよう」と監督が話しているのに、とんでもない方向に投げたり、あるいはふざけたりしているわが子を見て、ママたちがだんだんイライラ、ムカムカしてくるなんていうのは、よくある。
自宅に戻り「ねぇ、なんでちゃんとできないの!」とワントーン上がった声で言えば、子どもも「はいはい」「わかったわかった」なんて適当に返すものだから、怒りは一気に加熱。しまいには、野球に関係のない過去の出来事まで持ち出して、延々と説教を始める……ということは、わりと、ある。
この場合なら、“怒り”の感情を一度切り離し、「相手の胸元に向かって投げて、相手の球もしっかり受け取れるキャッチボールにしよう」と、次の練習で子どもにしてほしいことを明確に伝えたい。それが、子どもが「はあ?」で終わってしまわないための方策だ。
大原監督は「試合中、大きな声で怒ることはありますよ」とも話している。アンガーマネジメントでは、怒ってはいけないわけではなく、怒る必要があるときは怒る、必要がなければ怒らない、その境界線を自身で持てることが大事だと安藤氏は語る。たとえば、「怒りが爆発しそうになったら、とりあえず6秒待つ」「怒りがわいたらその場から離れる」など、無用な気持ちを鎮める具体的な方法をいくつも推奨している。
感情をそのまま乗せずに、ちょっと立ち止まって「子どもに何をわかってもらいたいのか」を考え、それをわかりやすく伝えるように心がける。あるいは「まず6秒間」気持ちを落ち着けてみる。何かひとつでも実践してみれば、不要な怒りがいくらかは軽減できるのではないだろうか。
「“目標”は日本一ですが、“目的”は選手たちの人間形成です」と大原監督
和歌山大学硬式野球部は「ノーサイン野球」を実践している。大原監督は選手が自律し、自発的に動くことを重視する。
練習中でも「あれ?」と思うことがあったら、そのまま流さずにすぐに練習を止めて、選手たちをマウンドに集める。今の局面と、とった行動とその結果について話し合うためだ。外野で走っている選手もブルペンにいるピッチャーも、全員が集まる。そこで意見を出し合い、次はどうしたらいいかをみんなで共有する。もちろん、そこに“感情”を混ぜ込むことはない。
その結果、判断力や思考力が磨かれ、監督が指示を出すのではなく、選手たちでコミュニケーションをとりながら試合を組み立てていく「ノーサイン野球」が可能になる。
少年野球では監督・コーチの指示が必要になることが多いかもしれないが、子どもたちに「考えさせる」ことも大切になってくるのではないだろうか。
一部の指導現場は旧態依然で「命令どおりにこなすべき」としているケースはある。しかし、これからの時代は「指示待ち」では社会で生き抜くのは難しい。学校教育は「自ら考え、課題を見出し、試行錯誤しながら解決していく」問題解決能力や、「生き抜く力」を育むことへとシフトしている。
大原監督は「“目標”は日本一ですが、“目的”は選手たちの人間形成です」と断言する。不要な怒りを減らし、子どもたちの未来に向けて野球を通じて「自律型人材」を育成することが、これからの指導者には必要なのではないだろうか。こうした「言葉」を少年野球指導者、そして野球ママたちにぜひ届けたい。
○大原 弘(おおはら・ひろし)
和歌山大学硬式野球部監督。2008年に監督就任後、近畿学生野球連盟3部から1部昇格へとチームを導き、2017年に全日本大学選手権に初出場。国立大学では史上4校目のベスト8進出を果たす。本職は株式会社エスビジョングループ(学習塾GES)の提携事業本部長。本職で培った組織学、リーダー学、心理学などを駆使したチームづくりで注目を集めている。
○安藤俊介(あんどう・しゅんすけ)
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。新潟産業大学客員教授。怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。理論、技術を米国から導入し、教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。主な著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)など。
【参考】強豪国立大学野球部からまなぶ! 自律型人材育成に必要なリフレクションとは? 和歌山大学硬式野球部・大原弘監督×一般社団法人アンガーマネジメント協会代表理事・安藤俊介
(大橋礼 / Rei Ohashi)
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