「指導者に敬語使う必要ない」 6年で全国出場3度…自発引き出す“壁なき関係性”
名古屋市・愛知名港ボーイズは“選手目線”で「楽しさと強さ」両立
指導者が選手を管理しなくても、結果を出せる。名古屋市にある中学硬式野球チーム「愛知名港ボーイズ」を率いる奥村尚監督は、就任6年目で3度の全国大会出場を果たしている。選手とは友人や兄弟のような距離感で接しながら、選手が自分の発言や行動に責任を持って、うまくなる環境をつくっている。
自然と人が集まってくる。全国大会常連のチームをつくり上げる監督でありながら、選手にも保護者にも壁をつくらない。奥村監督は「人間ムツゴロウと言われるくらい人が寄ってきます」と笑う。
奥村監督は学童野球チームを約10年指導した後、6年前から愛知名港ボーイズを率いている。向き合う相手が小学生から中学生に変わっても、選手と接するスタンスやチームづくりの根本は変わっていない。「選手目線」と「押し付けない指導」。選手がタメ口で話しかけたり、冗談を言ったりするくらい距離感が近い。
強豪チームでは出場機会を失うことを恐れて怪我を隠したり、自分の長所を消してでも監督が求めるプレーをしたりする選手が少なくない。だが、奥村監督が築くのは「何でも言える関係性」だ。
「指導者は選手を型にはめて、自分の思い通りに選手を動かした方が楽だと思います。でも、それでは野球の楽しさが失われてしまいますし、選手の良さも消えてしまいます。私たちのチームが心掛けているのは『楽しく強く』。エンジョイベースボールは慶応高校よりも、うちのチームの方が先です」
選手たちが目標設定…指導者はサポート役に
チームは来春の全国大会出場を決めるなど、愛知県有数の強さを誇る。ただ、選手に好き勝手させて、楽しさと強さを両立させているわけではない。奥村監督は、チーム以外の人に対する挨拶と礼儀を徹底している。
「選手は私たち指導者に敬語を使う必要はありません。高校や大学に進んだ時、いずれは厳しい環境に飛び込むので、中学までは楽しく野球をしてほしいと思っています。ただ、チーム以外の人に礼儀を欠くと、選手が損をしてしまいます」
自由の中に責任感を意識させるメリハリをつけた指導は、チームづくりの根幹となっている。新チームに移行するタイミングで、選手全員で集まって主将を中心にチーム目標を決める。全国大会出場や日本一など、年によって目指すところは異なる。そこに、奥村監督ら指導者は一切口をはさまない。
指導者の役割は、選手が決めた目標を実現するサポート。目標に応じて練習内容や選手への声掛けは変わってくる。奥村監督は「『日本一』と口で言うのは簡単です。日本一の練習をしなければ、日本一にはなれません。練習はきつくなりますが、選手たち自身で決めた目標なので、前向きに取り組んでいます」と話す。
選手には言葉に責任を持たせるため、目標達成に向けてふさわしくないプレーや態度に対しては厳しく指導する。チーム内の競争意識を高め、チームの士気を下げる手を抜いたプレーを見せた選手は出場機会を失う。
「基本となる動きは教えていますが、細かい技術指導はしていません」と奥村監督。選手たちは目標を自分たちで決めたからこそ、そのための努力を怠らない。そして、壁に直面した時は何でも話せる指導者たちに相談する。両者の距離感がチーム力アップにつながっている。
(間淳 / Jun Aida)
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