ボール扱い苦手でも…野球を楽にする“単純動作” 専門家推奨「量こなすほど上手くなる」
大学教授が野球少年に勧めるハンドリング練習で「ボールと友達になる」
少年野球からプロ野球まで幅広く指導している東京農業大の勝亦陽一教授が、子ども向けに“ハンドリング”の練習を推奨している。「野球には量をこなすほど、上手くなることがあります。その1つがハンドリングです」。他競技の漫画の主人公が「ボールは友達」という名言を吐いたが、野球でも「ボールと友達になること」は非常に重要なようだ。2月中旬、勝亦教授が、東京経済大・押川智貴特任講師と共に都内の少年軟式野球チームに対して実施した出張指導に密着した。
ハンドリングとは「情報・状況に対して適切に体とボールを操作すること」。練習の第一段階は、1人で行う「ボディサークル」。ベルトの高さの位置で、左手に持ったボールを体の後ろ(背中側)で右手に持ち替え、さらに右手を体の前(へその前)に回してボールを左手に持ち替える。これを何周か繰り返した後、逆方向にもボールを回す。
ベルトの高さを終えたら、顔の高さ、膝の高さ、片足を上げて太ももの周り、などいろんな位置でボールを回してみる。
次に、「ボールタッチ」。ボールを握らずに右手から左手へ、左手から右手へと素早く移動させる動作を繰り返す。ベルトの高さ、顔の高さ、背中側など、いろいろな位置や向きでやってみるといい。
これらのハンドリング練習はシンプルな動きの繰り返しだが、「打球をグラブで捕ったあと、ボールを見ながらゆっくり持ち替える時間はありません。無意識に持ち替えができるところまで数をこなせば、実際の試合でも楽にできるようになります」と勝亦教授は説明する。
「体とボールを思い通りに動かせるようになると、ボールを捕るのも楽しくなります。これらのハンドリング練習は1人でも、どこででもできます。家の中、ランニング中、他のウオーミングアップと組み合わせてもやれます。友達とおしゃべりをしながらでも、あるいは、よそ見をしながらでも、これらのハンドリングができるようになってほしいです」
ハンドリングの発展系…2人で息を合わせて投げ合うメニューも
続いて、頭くらいの高さから自分でボールを落としてキャッチする「ドロップキャッチ」、自分でボールを高く投げ上げてキャッチする「フライキャッチ」も行った。「ドロップキャッチ」は地面に落としてワンバウンドでキャッチ、地面近くでノーバウンドでキャッチ、ショートバウンドで素早くキャッチ…などのパターンがある。
「フライキャッチ」も、ベルトの高さでキャッチ、ジャンプしながらキャッチ、さらに投げ上げた後、体を半回転させてからキャッチ。そして最後には、投げ上げた後、いったん腰を落として床を触ってから、立ち上がってキャッチ……といった動作にも挑戦してみたい。こうして徐々に自分の体とボールを思い通りにコントロールしながら、フライキャッチができるようになっていく。
練習の第2段階は、2人1組で行う「ゴロキャッチ」。相手が転がすボールに体を正対させてキャッチ(正面)、体をグラブ側に向けてフォアハンドキャッチ(フォア)、反対側に向けてバックハンドキャッチ(バック)、さらには捕球直前にくるりと後ろを向いて、股間を抜けてくるボールをキャッチ(回転)など、グラブと体をいろんな向きにしてキャッチする。ボールを転がす側が「正面」「フォア!」「バック!」「回転!」と指示し、瞬時にそれに従うのも効果的で楽しい練習になる。
2人で2つのボールを使う方法もある。向かい合い、息を合わせて同時にボールを投げ、互いにキャッチする。これには、互いにワンバウンドで投げる、さらに片方がワンバウンド・片方がノーバウンドで投げて互いにキャッチする、などの難しいバージョンもある。また、2人のいずれかが頭くらいの高さにボールを持ち、任意のタイミングで離すのを、もう1人がキャッチする「ドロップキャッチ対決」も盛り上がる。
速い球を投げられても…相手が捕れなければ「意味がありません」
こうしたボールキャッチの発展系として、3人以上でやれる方法もある。円陣を作り、「せーの!」の掛け声と共に各自ボールを左隣の子に投げる。右隣の子からボールが来るのでそれをキャッチする。
さらに難易度が高いものもある。各自が同時に真上にボールを投げ上げて、右隣の子の位置に移動し、右隣の子が投げ上げていたボールをキャッチする。これらの練習は、1人でもタイミングが合わない子がいたり、相手が捕れないようなボールを投げてしまう子がいたりすると、成り立たない。
勝亦教授は「2人以上で行うボールキャッチは、自分本位では成立しません。速い球を投げる能力があったとしても、相手が捕れなければ意味がありません。野球は、強い球を投げる能力をひけらかすスポーツではありませんから」と解説。
野球には個人競技的な一面もあるが、やはりダブルプレー、中継プレーなど、2人以上が息を合わせなければならない連係プレーが多い。それを理解するにはうってつけの練習と言えそうだ。
「成長期の子どもには、他の子と協力してプレーするのが苦手な子もいますが、『みんなが前向きになって気持ちをそろえるとうまくできる』という経験をすることでチームプレーができるようになってきます」と勝亦教授は話す。
ボールと友達になることから、実際の友達と息を合わせることまで――。子どもが遊びながら身に付けられることはたくさんある。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
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