怒鳴る指導が腑に落ちない…悩み救った“出会い” 略歴に驚き「希望の星になった」

北海道の東川大雪少年野球スポーツ少年団【写真:チーム提供】
北海道の東川大雪少年野球スポーツ少年団【写真:チーム提供】

東川大雪少年野球スポーツ少年団の小林監督…辻正人氏に「毎日質問ぶつけた」

 北海道東川町の少年野球チーム「東川大雪少年野球スポーツ少年団」を率いる小林弘明監督は、町立東川小学校の教員を兼ねる“二刀流”だ。チームは昨年8月の「全日本都市対抗少年野球スポーツデポ淡路島大会」で全国ベスト8に進出し、小学生野球の最高峰といわれる「全日本学童軟式野球大会 マクドナルド・トーナメント」でも2019年に16強入りしている。Full-Countでは、全国の気になる学童チームの“選手を育てる秘訣”に着目。全国に至るまでには、様々な試行錯誤と新たな発見があったという。

 小林監督は北海道教育大を卒業後、旭川市立永山西小学校の教員となり、同時に永山西クラブのコーチとして、少年野球指導者のキャリアをスタートさせた。上富良野町立上富良野小学校への異動に伴い、2010年から上富良野ジャガーズの監督に就任。2014年と2015年には、全日本学童大会に導いている。

 そして、東川町立東川小学校への赴任とともに、東川大雪少年団の監督に。チームの指導方針には、「指導のない叱りや怒りはしないことを約束します。子どもに劣等感を与えず、逆に『自分ならできる』というポジティブ思考になれるような言葉かけを大切にしています」と掲げている。

 だが、小林監督自身「恥ずかしい話ですが、上富良野の時までは、かなり怒っていました。ダメなものはダメ。ミスに対して大きな声で怒ることも多々ありました」と打ち明ける。「指導のやり方を変えたのは、東川に来てから」だそうだ。

「よかれと思って叱っても、自分自身スッキリしない。あんな言い方をしなくてもよかったのではないか、どうにか改善できないか」と悩んでいた頃、画期的な出会いがあった。滋賀・多賀少年野球クラブの監督で、名指導者として知られる辻正人氏が北海道を訪れて講演会を開き、小林監督も知人に誘われて参加し感銘を受けたのだ。

「辻さんのプロフィールを見て驚いたのは、拠点の滋賀県多賀町の人口が1万人にも満たないこと(2020年現在で7274人)。上富良野町や東川町と変わらない規模で、こういう小さい町からでも全国大会の常連になれるのかと、僕の希望の星になりました」と振り返る。早速、辻氏とLINEを交換し、当初は毎日のように質問をぶつけた。

東川大雪少年野球スポーツ少年団の打撃練習の様子【写真:チーム提供】
東川大雪少年野球スポーツ少年団の打撃練習の様子【写真:チーム提供】

空振りしても怒られない」とわかった子はいい打球を飛ばすようになる

 辻氏のやり方も参考に、子どもにかける言葉を変えた。

「たとえば、凡打して一塁へダラダラ走っている子がいれば、今でも強い言葉で叱ります。ただ、以前は『ふざけるな、帰れ!』で終わっていたところで、今は『一塁まで全力疾走したら、相手もその圧を感じて次の打席も有利になるし、チームみんなの士気が上がるんだぞ!』というように、叱られた子が次にどうすればいいのかを、少しでもつかめるところまで言ってあげることが大事だと気づきました。今の時代の子どもは気持ちが重くなると、体も動かなくなってしまいますから」

 前向きな言葉を添えるようにすると、自然に乱暴な言葉は使わなくてなっていった。やがて、子どもたちの野球にも変化が表れた。

 最初に大きく変わったのは、打撃だった。「考えてみれば、打撃は失敗が多い分野ですから。僕やコーチの声かけが変わり、『空振りしても大丈夫、打てなくても怒られない』とわかった子どもは、心配事が消え、スイングが鋭くなり、いい打球を飛ばすようになりました」と証言。今年の東川大雪少年団に至っては、歴代最高の打力を誇るチームに育ちつつある。

 以前は、子どもが初球を空振りすると、「ボールをしっかり見ろ!」と声を張っていた小林監督自身、逆に「いいスイングだ!」と励ますようになった。すると、子どもは次のストライクをジャストミートしてみせることにも気づいたという。

 今も辻氏のことを師と仰ぎ、「直弟子」を自称する小林監督。「辻さんがよく言われる言葉に、『その場しのぎの現状維持は後退』というのがあります。僕も日々、自分をアップデートしていかなければ」と心掛けている。

 小学校の教員と少年野球チームの指導者との掛け持ちは、レアケースだ。「双方向ではありますが、僕の場合は、学童野球で学んだことを教室で生かす方向が多いです。親御さんたちとの関わり、声のかけ方による子どもの変容などは、小学校とも共通します」と語る。東川大雪少年野球スポーツ少年団は、6月3日から開催される「少年野球フェスティバル」に登場予定。“二刀流”ならではの自己アップデートを日々続ける、その成果の一端を披露する。

2019年にマクドナルド杯16強…東川大雪少年野球スポーツ少年団も登場!

 Full-Count、First-Pitchと野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」では、6月3日(月)から5夜連続で、オンラインイベント「少年野球フェスティバル」を開催します。全国47都道府県で話題の学童野球(小学生軟式野球)チームの練習法・指導法を動画で紹介。ゲストコメンテーターと共に、選手が育つ秘訣や強さの秘密を探っていきます。参加費は無料。登場チームなどの詳細は以下のページまで。

【少年野球フェスティバル・詳細】

https://first-pitch.jp/article/coaching-methods/20240604/7675/

【参加はTURNING POINTの無料登録から】

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(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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